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![シンクロニシティ [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_4ac15fc875d4451fb816cbc21824d326~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_4ac15fc875d4451fb816cbc21824d326~mv2.webp)
![シンクロニシティ [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_4ac15fc875d4451fb816cbc21824d326~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_4ac15fc875d4451fb816cbc21824d326~mv2.webp)
シンクロニシティ [第3話]
【第3話】 嵐の外 翌日もハリケーンは去らなかった。 起きてカーテンを開けると、窓の向こうに昨日と同じ空があった。 空港の誘導灯が、昼なのに点灯していた。 滑走路には飛行機が並んでいるが、どれも動いていなかった。 廊下に出た。 七瀬が廊下の窓の前に立っていた。 カメラを首から提げて、外を向いていた。 スウェットの上にデニムジャケットを羽織っていた。 昨日と違う顔をしていた。 空港のカウンターで言い合いをしていたときでも、バーで飲んでいたときでもない。 撮っているときの顔だった。 「撮れましたか」と声をかけた。 振り返った。「少し」と言って、カメラの液晶を向けてきた。 嵐の空港だった。 ガラス越しに撮った写真は、空港をまったく別のものにしていた。誘導灯が雨の中でにじんで、ターミナルのシルエットが霞んで、飛べない飛行機が暗がりの中に浮いていた。廃墟のように見えた。でも廃墟ではなかった。ただ、嵐の中にある空港だった。 「上手いですね」と俺は言った。 「お世辞ですか」 「いえ」 七瀬がカメラを戻した。「廃墟に見えますか」 「見えます」...

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6月28日
![シンクロニシティ [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_d29f4f24234c44679b0977a7065faee9~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_d29f4f24234c44679b0977a7065faee9~mv2.webp)
![シンクロニシティ [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_d29f4f24234c44679b0977a7065faee9~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_d29f4f24234c44679b0977a7065faee9~mv2.webp)
シンクロニシティ [第2話]
【第2話】 オールドファッションド 1時間後、七瀬がバーに現れた。 空港で見たときとは別人のような顔をしていた。 トレンチコートの代わりに落ち着いたカーディガンを羽織っていて、黒髪をまとめ直していた。 疲れはまだ顔に残っていたが、さっきまでのぴりぴりした緊張感は消えていた。 シャワーを浴びてきたのがわかった。 「お待たせしました」と七瀬は言った。 「いえ」 七瀬はバーボンのオールドファッションドを頼んだ。 Napa & Ryeはホテルの1階にある。 カウンターと数脚の椅子、奥にテーブルが並んだ小さなバーだ。 空港ホテルのバーにしては落ち着いた内装で、琥珀色の照明の中にウイスキーのボトルが並んでいた。 ワインリストも充実している。 ただ今夜は、この店にいる客の誰も、そんなことを確認する余裕を持っていなかった。 「飲めるんですね」と俺は言った。 「ハリケーンのときくらい飲まないと」と七瀬は言った。 俺はマンハッタンを頼んだ。 バーテンダーがグラスを置いた。 七瀬がひと口飲んだ。 肩の力が、少し抜けた。 それまで空港でずっと張っていたものが、ここで初め

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6月27日
![シンクロニシティ [第1話/全6話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_6567196317ff4a6696081c46c9cf6517~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_6567196317ff4a6696081c46c9cf6517~mv2.webp)
![シンクロニシティ [第1話/全6話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_6567196317ff4a6696081c46c9cf6517~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_6567196317ff4a6696081c46c9cf6517~mv2.webp)
シンクロニシティ [第1話/全6話]
【第1話】 ハリケーンの前 ハリケーンが来ていた。 ヒューストン・ジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル空港の出発フロアは、いつもと違う音をしていた。 アナウンスが途切れることなく流れ、カウンターに列が殺到し、フライトボードの「CANCELLED」が増え続けていた。 さっきまで30便だったのが、10分で40便になった。 人が動くたびにスーツケースがぶつかり合い、子どもが泣き、老人が壁際でスマホを握りしめていた。 俺のデトロイト行きの便も、30分前にキャンセルになった。 ハリケーン・ルイーズ。カテゴリー3。 テキサス湾岸に向けて北上中。 National Hurricane Centerが「48時間以内に上陸」と発表してから、空港の空気が変わった。 滑走路は閉鎖になり、全便が止まった。 行き場を失った乗客がカウンターに押し寄せた。 カウンターで手続きを終えて、次の便の空きを確認した。 乗れる便は最短でも明後日だった。 ホテルの手配を考え始めたそのとき、気がついた。 列が、動いていない女がいた。 カウンターの右端。4番レーンだった。...

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6月26日
![帰り道は遠回りしたくなる [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_3ac212f4c24c4f3dbb7b18382e64a747~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_3ac212f4c24c4f3dbb7b18382e64a747~mv2.webp)
![帰り道は遠回りしたくなる [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_3ac212f4c24c4f3dbb7b18382e64a747~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_3ac212f4c24c4f3dbb7b18382e64a747~mv2.webp)
帰り道は遠回りしたくなる [最終話]
【最終話】 帰り道は遠回りしたくなる 最終日の商談は、午後から動いた。 タタのCPOが修正した条件を持ってきた。 前回より数字は動いていたが、まだ強気だった。 俺は資料を一枚出した。 「この水準だと、御社内の承認が通らない可能性がある」と言った。 理由を3つ述べた。先方が少し黙った。 CPOが隣のCFOに小声でヒンディー語で何か言った。 CFOが頷いた。 「修正しましょう」 契約書の草案を交わしたのは夕方6時だった。 握手をして、ロビーを出た。 空港に向かうタクシーに乗った。 Chhatrapati Shivaji Maharaj International Airportまでは、道が混めば1時間を超える。 夕暮れ時のムンバイは、渋滞と夕日と潮の匂いが混ざる。 街が色を変えていく時間帯だ。 スマホを開いた。 Priyaの連絡先があった。 昨夜、ドアの前で交換した。 メッセージを書き始めた。 「ムンバイを離れる前に。」 そこで止まった。 続きを書こうとした。 何度か書いては消した。 「また来ます」は嘘かもしれない。 「良かった」は軽すぎる。 「また

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6月22日
![帰り道は遠回りしたくなる [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_af28e7289b1e45d79471fcd9b98ce87e~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_af28e7289b1e45d79471fcd9b98ce87e~mv2.webp)
![帰り道は遠回りしたくなる [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_af28e7289b1e45d79471fcd9b98ce87e~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_af28e7289b1e45d79471fcd9b98ce87e~mv2.webp)
帰り道は遠回りしたくなる [第3話]
【第3話】 アラビア海の側で MasqueはローワーパレルのRaghuvanshi Mills Compoundにある。 かつて綿花工場だった建物の中に、店がある。 高い天井、むき出しの梁、赤レンガの壁。 装飾ではなく、時間が作ったものだ。 シェフのPrateek Sadhuはヒマラヤの山岳地帯出身で、 インド亜大陸の先住民的な食材と現代の技法を組み合わせたコース料理を出す。 アジアのベストレストラン50に選ばれている。 テイスティングコースは一人5500ルピー。日本円で1万円ほど。 「ここも最初ですか」とPriyaが聞いた。 「はい」 「毎回来たことない店に連れて行くんですか」 「いい店なら調べればわかる」 Priyaが口元に少し笑みを作った。 最初の一皿は、黒いセラミックの皿に盛られた小さな料理だった。 発酵させたジャックフルーツと、野生のベリー、地元のスパイスを使ったエスプーマ。 口の中でほどけた瞬間に、甘みと酸みと土の香りが一度にくる。 これがインドなのか、と思った。 知っていたインドとは別の場所から来たものだった。 5皿目に、アラビア海

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6月21日
![帰り道は遠回りしたくなる [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_d02e5cb4241d4c9696f2be1f0ee1c496~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_d02e5cb4241d4c9696f2be1f0ee1c496~mv2.webp)
![帰り道は遠回りしたくなる [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_d02e5cb4241d4c9696f2be1f0ee1c496~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_d02e5cb4241d4c9696f2be1f0ee1c496~mv2.webp)
帰り道は遠回りしたくなる [第2話]
【第2話】 クラブと、窓の外 翌夜7時ちょうどに、彼女は来た。 白いブレザーではなく、深いグリーンのワンピースだった。 俺の顔を見てから時計を見て、「ちょうど7時ですね」と英語で言った。 その一言だった。 この女は時間を守る側の人間だ。 そして、守ったことを主張しない。確認するだけだ。 カラ・ゴーダのRope Walk Laneにあるのに、Trishnaには看板らしい看板がない。 1981年の創業以来、変わらない。 Ajit Kapurが立ち上げたこの店を、いまは息子が厨房で守っている。 外観からは想像できない。 観光ガイドには載っているが、それを知って来る客と、知らずに来る客とでは、店との関係が少し違う。 「有名なんですか、ここ」とPriyaが聞いた。 「ムンバイで魚介を食べるなら、ここ以外考えなくていい」 「来たことはありますか」 「今日が最初です」 Priyaが少し口角を上げた。 それが笑いなのかどうか、判別が難しかった。 バター・ペッパー・ガーリック・クラブを頼んだ。 マッドクラブを使ったTrishnaの看板料理だ。 価格は時価で、この日

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6月20日
![帰り道は遠回りしたくなる [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_9c98212112a544b4acd87dd2500ec49d~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_9c98212112a544b4acd87dd2500ec49d~mv2.webp)
![帰り道は遠回りしたくなる [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_9c98212112a544b4acd87dd2500ec49d~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_9c98212112a544b4acd87dd2500ec49d~mv2.webp)
帰り道は遠回りしたくなる [第1話/全4話]
【第1話】 チャイと名刺 この街は、音が多い。 ムンバイに来るたびにそう思う。 クラクション、売り声、寺院の鐘、工事の音——それが重なって、塊になっている。 騒音ではなくて、街の体温に近い。 タタ・モーターズのムンバイ本社で商談が終わったのは、午後3時を少し過ぎたころだった。 打ち合わせは2時間かかった。 テーマはEVシフトに伴うサプライヤーの再編だ。 先方のCPOが最初に言ったのは「日本のサプライヤーはEV移行が遅い。 正直、今のパートナーシップを見直す時期に来ている」という一言だった。 俺は資料を一枚めくった。 「おっしゃる通りです」 同意から入った。否定より速い。 「ただ、移行が遅いということは、まだ決まっていないということでもある。今この段階で入ることが、5年後に意味を持つ」 次のページに数字を並べた。 EV部品の調達コスト削減率、日本の主要サプライヤーとの既存ネットワーク、納期の達成率。 隣に座るCFOが眼鏡を少し持ち上げた。CPOが10秒ほど黙った。 「もう一度話しましょう」 それで十分だった。今日の仕事は終わった。 BKCから配車を

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6月19日
![逃げ水 [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_f31ed176cafe47b09bb3991aec3a7fd3~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_f31ed176cafe47b09bb3991aec3a7fd3~mv2.webp)
![逃げ水 [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_f31ed176cafe47b09bb3991aec3a7fd3~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_f31ed176cafe47b09bb3991aec3a7fd3~mv2.webp)
逃げ水 [最終話]
【最終話】 逃げ水 帰国してから3週間後、フランクフルトの商談は正式な契約書になった。 EVコンポーネントの供給枠を確保するのに、合計で3ヶ月かかった。 最終確認の電話がドイツから来たとき、俺は東京の会議室にいた。 長い交渉だった。 でも仕事というのはそういうものだ。 終わった瞬間に、次が始まる。 部門長が「よくやった」と言った。 それだけだった。 フランクフルトの3日間が、東京の会議室の一文で閉じた。 その翌日、Lenaからメッセージが来た。 LinkedInだった。英語で書いてあった。 「フランクフルトでの夜はとても良かったです。またいつかフランクフルトに来ることがあれば、ぜひ連絡してください。Lafleurのあのコース、また食べたいと思っています。」 読んだ。もう一度読んだ。 彼女らしい言葉だった。 丁寧で、具体的で、温かかった。 Lafleurという固有の記憶を持ち込んできたのは、あの夜が彼女にとって意味を持っていたからだ。 それは分かった。 Sachsenhausenでタクシーに乗る前に何かを言いかけた女が、こういう形で言葉を送ってきた

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6月15日
![逃げ水 [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_b1555c07884e4f4fb4252e8955b9979b~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_b1555c07884e4f4fb4252e8955b9979b~mv2.webp)
![逃げ水 [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_b1555c07884e4f4fb4252e8955b9979b~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_b1555c07884e4f4fb4252e8955b9979b~mv2.webp)
逃げ水 [第3話]
【第3話】 ソフィーは、フランス語で笑った Jimmy's Barは1952年創業、Hotel Hessischer Hofのバーだ。 マホガニーのパネルが壁を覆い、深いアンバーの照明が落ちていた。 長い歴史の中で政治家も財界人もここで飲んできた。 フランクフルトに来るたびに立ち寄る人間と、一生知らない人間がいる。 その差は、この街の夜を知っているかどうかだ。 「ここ、よく来るんですか。」と俺は聞いた。 「フランクフルトには年に4、5回来ます。出張のたびに。」ソフィーはバーボンを頼んだ。 「さっき入ってきたとき、何かを考えているような顔をしていましたね。」 「そう見えましたか。」 「見えました。」 彼女は俺を遠慮なく観察していた。 でも嫌な感じはしない観察だった。 フランス人の直接性はドイツ人のそれとは違う。 論理ではなく、感覚で動く。 「どんな出張ですか。」 「電動化対応の部品開発です。あなたと同じ側にいます。でも競合かもしれない。」口角が少し上がった。 「気にしますか。 」「しません。」 ソフィーが少し笑った。 フランス語で短く何か言った。

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6月14日
![逃げ水 [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_68689db4617d42bb99f37e1803d0d7aa~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_68689db4617d42bb99f37e1803d0d7aa~mv2.webp)
![逃げ水 [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_68689db4617d42bb99f37e1803d0d7aa~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_68689db4617d42bb99f37e1803d0d7aa~mv2.webp)
逃げ水 [第2話]
【第2話】 Sachsenhausenで、もう一歩が来なかった LafleurはパルメンガルテンのすぐそばにあるSiesmayerstraßeに建つ。 19世紀の歴史的な建物をそのまま使った、ミシュラン2つ星の店だ。 シェフのアンドレアス・クロリックがこの厨房を長く引っ張っている。 テーブルに着くと、静けさが違うと分かった。 音量ではなく、空気の密度が違う。 ここで食事をすることを知っている人間だけが来る場所の静けさというものがある。 テイスティングコースを取った。175ユーロ。 鹿肉のロースト。 タウヌス山地産のジビエを、クランベリーのソースとパースニップのピュレで仕立てていた。 表面は薄く焦げ目がついていて、切ると中はまだ赤い。 一口含むと、野性味のある肉の旨みが、ベリーの酸みと交差する。 仕上げに削った黒トリュフが香りを立てた。 この料理が成立するのは、素材をすべてドイツの土地から持ってきているからだ。 東京で同じ皿を出しても、この味にはならない。 この国に来た者だけが口にできる一皿だ。 LenaはSeeforelle——マス科の淡水魚——

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6月13日
![逃げ水 [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_cec92930d837492b90519245acea2f90~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_cec92930d837492b90519245acea2f90~mv2.webp)
![逃げ水 [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_cec92930d837492b90519245acea2f90~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_cec92930d837492b90519245acea2f90~mv2.webp)
逃げ水 [第1話/全4話]
【第1話】 Alte Operの、隣の席だった フランクフルトに来て3日目になる。 EV向け電子制御ユニットの供給交渉が続いていた。 日系自動車メーカーの次世代プラットフォームに搭載する部品を、 どのドイツサプライヤーと、どの条件で確保するか。 競合他社も同じ市場を狙っている中で、何を差別化するか。 それがこの出張の本題だった。 2日目の午後、交渉が止まった。 相手側の技術責任者が「品質保証の範囲が不明確すぎる」と言った。 提案書の弱いところを、正確に突いてきた。 ドイツ人のエンジニアはそういうことをする。 感情より論理、印象より数字。その場で反論するのは賢くない。 「明日、修正した条件を持ってきます」と言って、その日の会議を終えた。 ホテルに戻るタクシーの中で、仕様書を全部読み直した。 何が問題で、何が解決できるか。感情より構造を先に見る。 それが仕事の基本だ。 ドイツのエンジニアが突いてきた弱点は正確だった。 それを認めた上で、使える条件を組み替えること。 反論ではなく、再設計だ。 翌朝、3つの修正条件を提示した。 保証範囲を絞る代わりに、単

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6月12日
![雨の前に、もう一杯だけ [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_0b7a433b68ca4ab59234ec9aa05b48ee~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_0b7a433b68ca4ab59234ec9aa05b48ee~mv2.webp)
![雨の前に、もう一杯だけ [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_0b7a433b68ca4ab59234ec9aa05b48ee~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_0b7a433b68ca4ab59234ec9aa05b48ee~mv2.webp)
雨の前に、もう一杯だけ [最終話]
【最終話】 雨の前に、もう一杯だけ 帰国して、3週間後に次のジャカルタ出張が入った。 スケジュールを見たとき、ナディアに連絡するかどうか考えた。 5秒考えて、連絡した。返事はその夜来た。 「また来るんですね。嬉しいです。夜は空けておきます。」 日本語は相変わらず正確だった。 正確すぎて、どこまでが本音か分からないときがある。 最後の一文だけが、分かりやすかった。 2回目のジャカルタでも、3回目でも、会った。 いつも同じホテルを取った。 いつも夜、どこかで食事をした。 彼女が案内することも多かった。 ロードサイドの食堂で、プラスチックの椅子に座ってサテ・アヤムを食べた夜があった。 「こっちが本当のジャカルタです」とナディアは言って笑った。 串に刺さった鶏の炭火の香りが夜の路地に漂っていた。 俺が東京で想像していたジャカルタとは違う顔だった。 上からしか見たことのない街を、横から歩いている感じがした。 LINEは毎日ではなかったが、続いた。 出張の回数が増えるにつれて、Karimun Batteryとの合意は固まっていった。 契約書が完成したのは、5

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6月8日
![雨の前に、もう一杯だけ [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_8e3a592d87274f5a83c5d402bb6a0d42~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_8e3a592d87274f5a83c5d402bb6a0d42~mv2.webp)
![雨の前に、もう一杯だけ [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_8e3a592d87274f5a83c5d402bb6a0d42~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_8e3a592d87274f5a83c5d402bb6a0d42~mv2.webp)
雨の前に、もう一杯だけ [第3話]
【第3話】 雨は、まだ降っていた The St. Regisのバーに入ったのは、23時を過ぎた頃だった。 深夜のバーは、昼間のホテルとは別の顔をしていた。 大理石のカウンターに、アンバーの照明が落ちていた。 バックバーには厳選されたボトルが整然と並び、バーテンダーが一人だけいた。 シグネチャーカクテルを頼んだ。165,000ルピア。 インドネシア産クラフトジンを使ったベースに、カラマンシーとレモングラスを合わせたものだ。 一口飲むと、ジュニパーの香りが先に来て、後から東南アジア特有の柑橘の鋭さが追いかける。 この国の原料でしか作れない、この場所にしかない一杯だった。 雨の夜に、これほど合うものを俺は知らない。 このグレードのホテルのバーが深夜に静かである理由は、ここに来る人間がそれを望んでいるからだ。 「最後に一杯だけ」と俺は言った。 ナディアは黙って席に着いた。 ホテルに戻るまでの間、二人ともほとんど話さなかった。 雨の中のタクシーで、窓の外を見ていた。 沈黙が重くなかった。重くない沈黙が成立するには条件がある。 お互いが相手のそばにいることに

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6月7日
![雨の前に、もう一杯だけ [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_1a7b10744e0c407583b4a1a003e49c0f~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_1a7b10744e0c407583b4a1a003e49c0f~mv2.webp)
![雨の前に、もう一杯だけ [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_1a7b10744e0c407583b4a1a003e49c0f~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_1a7b10744e0c407583b4a1a003e49c0f~mv2.webp)
雨の前に、もう一杯だけ [第2話]
【第2話】 植民地の邸宅で、素顔を見た Lara Djonggrangはジャカルタのムンテン地区、チキニ通りにある。 1920年代に建てられたオランダ植民地時代の邸宅をそのまま使った、インドネシア料理の名店だ。 外から見ると古い住宅の面構えのままで、中に入ると庭にジャワ・ヒンドゥー様式の石像がランタンに照らされて並んでいる。 フランジパニの甘い香りが庭に漂っていた。 テーブルは庭の中に置かれていて、頭上に南国の夜空が広がっていた。 観光客が来る場所ではない。 ジャカルタで何かを知っている人間だけが予約を入れる店だ。 ナディアが来たとき、少し驚いた顔をした。 「本当に来たんですね」と彼女は言った。 「どういう意味ですか」と俺は言った。 「昨日の電話が本物かどうか、半分疑っていました。」 黒のドレスに着替えていた。仕事のときとは別人だった。 ラウォンを頼んだ。185,000ルピア。 インドネシア東ジャワの伝統的な黒いスープで、クルウェックというナッツが色と深みを作る。 見た目の黒さに比べて、味は深く、柔らかい。 牛肉の繊維がスープに溶け込んでいて、発

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6月6日
![雨の前に、もう一杯だけ [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_0549725bf68645c0ae4aea3c9e5be054~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_0549725bf68645c0ae4aea3c9e5be054~mv2.webp)
![雨の前に、もう一杯だけ [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_0549725bf68645c0ae4aea3c9e5be054~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_0549725bf68645c0ae4aea3c9e5be054~mv2.webp)
雨の前に、もう一杯だけ [第1話/全4話]
【第1話】エグゼクティブラウンジの、隣の席 ジャカルタに来て5日目になる。 EVバッテリーの調達スキームをめぐる交渉が続いていた。 日系自動車メーカーがアジアでの現地生産比率を引き上げるにあたって、インドネシアのサプライヤーとの連携は外せない。 俺の仕事は、どのメーカーと、どの条件で組むか、その橋渡しを作ることだった。 期限は今週中だった。 4日目の午後、交渉が止まった。 相手はKarimun Batteryの調達部長、ハルトノ・サントソ。 50代のインドネシア人で、通訳を介した3時間の会議の末、「検討します」とだけ言った。 アジアで仕事をしてきた人間なら分かる。その言葉の意味は、NOだ。 翌朝、俺は議題を変えた。 契約の話をやめた。代わりに、インドネシアのEV市場が5年後にどうなるかを話した。 政府補助金の方向性、二輪から四輪への需要移行、中国系メーカーの攻勢と日系の対抗策。 最後に「貴社が5年後にどの位置にいたいか」と聞いた。 ハルトノが、通訳を介さずに少し長く答えた。本音が混じっていた。 午後3時、フレームワーク合意の骨格ができた。...

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6月5日
![大嫌いなはずだったのに [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_4543ab7fe80e44d392db0fdbe49a95c5~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_4543ab7fe80e44d392db0fdbe49a95c5~mv2.webp)
![大嫌いなはずだったのに [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_4543ab7fe80e44d392db0fdbe49a95c5~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_4543ab7fe80e44d392db0fdbe49a95c5~mv2.webp)
大嫌いなはずだったのに [最終話]
【最終話】 大嫌いなはずだったのに 帰国してから、3週間後に次の上海出張が入った。 NIOとの交渉は継続中で、修正した提案書を持っての再訪だった。 他にも2社、別の案件でアポが入っていた。 出張の理由は十分にあった。 スケジュールを確認したとき、リンに連絡するかどうかを考えた。 10秒考えて、連絡した。返事はすぐ来た。 「知ってました。また来ると思っていました」とリンは書いた。 俺は「なぜ」と返した。 「三好さんは、やり残したことを放置しない人だから」と来た。 仕事の話なのか、それ以外の話なのか、聞かなかった。 上海に向かう飛行機の中で、その言葉を反芻した。 やり残したこと。仕事ならそうかもしれない。 ただ、今回の出張の準備を始めたとき、最初に頭に浮かんだのは次の商談ではなかった。 2回目の上海は、最初とは違う空気だった。 商談でリンと向かい合っても、同じ人間だとは思えなかった。 交渉のテーブルでは鋭く、容赦がない。 俺の提案を数字で切る。 そのやり方は変わらなかった。 ただ、会議が終わった後の顔を、俺は知っていた。 その顔を知っていることが、商

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6月1日
![大嫌いなはずだったのに [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_d65ea4ee805940f7b9357a9becfa5942~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_d65ea4ee805940f7b9357a9becfa5942~mv2.webp)
![大嫌いなはずだったのに [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_d65ea4ee805940f7b9357a9becfa5942~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_d65ea4ee805940f7b9357a9becfa5942~mv2.webp)
大嫌いなはずだったのに [第3話]
【第3話】 ペニンシュラの、夜が長かった The Peninsulaのバーは静かだった。 1929年建設のホテルは、上海でも数少ない「歴史を持つ建物」だ。 植民地時代の名残がある外灘に建ち、高い天井と大理石の柱が当時のままだ。 バーのカウンターに座って飲んでいると、今が何年かが分からなくなる。 俺はウイスキーを頼んだ。リンはジンを頼んだ。 バーテンダーは何も聞かなかった。 グラスを二つ出して、氷を入れた。 この店では客が喋る必要がない。 席に座ること自体が、言葉の代わりになる。 そういうバーだった。 しばらく、何も話さなかった。 沈黙が重くなかった。 重くない沈黙が成立するには、条件がある。 お互いが相手のそばにいることに慣れていること。 48時間前に初めて会った相手とこの空気になるのは、珍しいことだ。 ただ、商談からここまでを振り返ると、時間の密度が普通ではなかった。 Fu 1088の2時間。Speak Lowの深夜。 Mr & Mrs Bundの夜景。 そのどこかで、距離が縮まっていた。気づかないうちに、縮まっていた。 「今日の商談は、どうで

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5月31日
![大嫌いなはずだったのに [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_dba4d68207c74e8495afb12c30627a9d~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_dba4d68207c74e8495afb12c30627a9d~mv2.webp)
![大嫌いなはずだったのに [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_dba4d68207c74e8495afb12c30627a9d~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_dba4d68207c74e8495afb12c30627a9d~mv2.webp)
大嫌いなはずだったのに [第2話]
【第2話】 隠れ家で、別の顔を見た Speak Lowは復興中路の路地にある。 復興中路は夜でも人通りがあった。 プラタナスの並木が上から覆いかぶさって、その間から街灯が落ちている。 リンは迷わなかった。 この街の地図が、彼女の中に入っていた。 表向きは本の並んだポップアップショップだ。 入り口には「Bar」の表示がない。 知らなければ通り過ぎる。 扉を開けて中に入ると、カウンターと棚いっぱいのボトルがある。 日本人バーテンダーの後神慎悟が手がけた店で、ミシュランに名前が載っている。 上海に来る度に立ち寄る人間と、一生知らない人間がいる。 それだけの差がある店だ。 カウンターに並んだ。 「ここ、よく来るんですか」と俺は聞いた。 「月に2、3回。」 「一人で?」 「大体は一人です。」彼女はそう言って、カクテルメニューを見た。 「仕事のあと、静かにしたい夜があって。」 頼んだカクテルは、ジャスミンティーとライムを使ったシグネチャーだった。180元。 一口飲むと、花の香りが先に来て、後からライムの酸みが伸びてくる。甘さが残らない。 上海の夜に、これほど

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5月30日
![大嫌いなはずだったのに [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_5e431479487f49baa8edd1fae6def28d~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_5e431479487f49baa8edd1fae6def28d~mv2.webp)
![大嫌いなはずだったのに [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_5e431479487f49baa8edd1fae6def28d~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_5e431479487f49baa8edd1fae6def28d~mv2.webp)
大嫌いなはずだったのに [第1話/全4話]
【第1話】 提案を、一刀両断された 上海に来て2日目になる。 EVインフラの整備計画をめぐり、中国側パートナーとの交渉が続いていた。 政府系の補助金スキームと、民間資本の組み合わせ方を詰める作業だ。 日本の商社として何を持ち込めるか、相手に何を期待するか。 その落とし所を探る3日間で、2社目がNIOだった。 会議室に入ったとき、リンはいなかった。 5分待った。10分待った。 スタッフが「少々お待ちください」と言うだけで、それ以上の説明がなかった。 俺は黙って待った。 窓の外に上海の高層ビルが並んでいた。 この国の商談は、待たされる方が弱い。 それを知っている側が、いつも遅れてくる。 15分後、彼女が入ってきた。 謝らなかった。「凌(リン)です」とだけ言って、名刺を出した。 名刺を一瞥して、すぐ机に置いた。そのまま資料を開いた。 日本側が持参した提案書を読み始め、2分ほどして「この数字の根拠は何ですか」と聞いた。 日本語だった。正確な、一切の揺れがない日本語だった。 こちらが説明している途中で、「それはNIOには合わない」と言った。 「理由を聞いて

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5月29日


海外クラブで“いけた”と思った夜、友人に全部持っていかれた話|マニラの現実がエグい
あの夜、完全に“いけた”と思ってた。 ——結果、俺だけ何も起きなかった。しかも理由が、エグかった。 マニラに来た理由は、ほぼない。 「なんか海外行きたいな」くらいのノリで、気づいたら航空券を取っていた。セブでもバンコクでもよかった。たまたま安かったのがマニラだっただけ。 ただ、出発前にYouTubeでこんな動画を見た。 「マニラのクラブ、日本人ってだけでバリバリモテる説」 再生回数、42万回。 ——信じた。完全に信じた。 昼、カフェでだらだらしていると友人が言った。 「マニラってクラブ結構ヤバいらしいで」 ヤバいの中身はよくわからない。でも、その曖昧さがちょうどよかった。 「海外なら余裕でしょ」 日本だったら絶対言わない。でも海外マジックというのは恐ろしいもので、なぜか強くなった気がした。根拠ゼロで「今日は当たり引くぞ」と思っていた。 この時点で、完全に自分が主役のつもりだった。 場所 向かったのは、BGCにある「XYLO at The Palace」。 外まで漏れてくる低音と、人のざわめき。入口の時点で、もう空気が違う。中に入った瞬間、全部に飲

GENPASS 匿名協力記者
5月27日
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