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![サヨナラの意味 [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_9c1576c6f12e40c29c9cfdb758ff85f9~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_9c1576c6f12e40c29c9cfdb758ff85f9~mv2.webp)
![サヨナラの意味 [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_9c1576c6f12e40c29c9cfdb758ff85f9~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_9c1576c6f12e40c29c9cfdb758ff85f9~mv2.webp)
サヨナラの意味 [最終話]
【最終話】 サヨナラの意味 リカが部屋を出たのは、9時を少し過ぎた頃だった。 「仕事、行ってくるね」 バッグを肩にかけながら、ドアのところで振り返った。 「ヒースロー、何時?」 「17時のフライトです」 「じゃ、まだある」 リカが少し笑った。 「行ってくる」 ドアが閉まった。 11時にClaridge'sをチェックアウトした。 スーツケースをベルデスクに預けて、外に出た。 雨は上がっていた。Hyde Parkまで歩いた。 ベンチに座って、スマホを開いた。 出張中に届いていたメールに三通だけ返信した。 それ以上は続かなかった。 水面をアヒルが一羽、横切った。 スマホが鳴った。 リカからだった。 「今どこ?ヒースロー、一緒に行っていい?」 「Hyde Parkです。来るんですか」 「だめ?」 「だめじゃないです」 「じゃNotting Hillでランチしてから行こ。待ってて」 The Cow。 Westbourne Park Roadの角、赤いファサードに黒板メニューが出ているアイリッシュパブだ。 昼間から常連が入っていた。 Carlingford

GENPASS 編集 三好
3 日前
![サヨナラの意味 [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_4b00775c89c9438e8bb19b9eed3771e1~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_4b00775c89c9438e8bb19b9eed3771e1~mv2.webp)
![サヨナラの意味 [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_4b00775c89c9438e8bb19b9eed3771e1~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_4b00775c89c9438e8bb19b9eed3771e1~mv2.webp)
サヨナラの意味 [第3話]
【第3話】 帰国は明日 水曜、仕事が押した。 JLRのチームとの打ち合わせが午後に入っていた。 製品戦略の説明でノートPCを繋ぎ、資料を共有した。 終わりが見えたころ、向こうのマネジメントが「夕方に別の場所で話を続けよう」と言った。 スマホを取り出してリカに「遅れます」と入力しようとしたとき、画面が真っ黒だった。 プレゼン中に使いすぎて、電池が切れていた。 ステーキハウスは長くなった。 赤ワインが入り、英国の自動車産業の話に移り、2時間が経った。 三好は時計を確認するたびに、画面の戻らないスマホを内ポケットに押し込んだ。 22時を過ぎてようやく席を立てた。 外に出ると、雨だった。 傘を開いた。 向こうが「タクシーを」と言いかけたが断った。 急ぎたかっただけだった。 リカと約束していたのは、Bruton Streetの角にある小さなビストロだった。 Mayfairに出るなら、と昨夜リカが名前を挙げていた。 「閉まる前に行こうよ」と言っていた。 閉まる前、という前提は、もう崩れていた。 雨の中を走った。 ビストロのシャッターは降りていた。 その手前に

GENPASS 編集 三好
4 日前
![サヨナラの意味 [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_9655ef83d0d54ea3a398a6e6e2e01ec6~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_9655ef83d0d54ea3a398a6e6e2e01ec6~mv2.webp)
![サヨナラの意味 [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_9655ef83d0d54ea3a398a6e6e2e01ec6~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_9655ef83d0d54ea3a398a6e6e2e01ec6~mv2.webp)
サヨナラの意味 [第2話]
【第2話】ナイスカップル 9時55分にClaridge'sのロビーに降りると、リカがすでにいた。 ソファに座って雑誌を読んでいた。 こちらが近づいても顔を上げなかった。 上げたとき、まず眉をしかめて顎を引いた。 「遅い!」と言った。 一拍置いて、パッと笑顔になった。 「おはよー!遅いって言いたかっただけだよ笑」 時計を見た。9時55分だった。 「じゃーレッツゴー!」 立ち上がって先に出口へ向かった。 外でブラックキャブを拾った。 乗り込んだ瞬間、リカが俺の腕を組んだ。 そのまま前の運転席に向かって英語で言った。 「私たち、どう見える?」 "Nice couple"と運転手が言った。 リカが俺を向いた。 下唇を突き出して、子供みたいに拗ねた顔をした。 「兄弟にしか見えないって言われた」 「ナイスカップルって言ってましたよ」 「お!」リカが目を丸くした。 「ヨッシーは私たちナイスカップルだと思ってるんだー」と言いながら、指で俺の腕をつついた。 「ナイスカップル、ナイスカップル」 俺は窓の方を向いた。 3月のロンドンは空が低い。 灰色の雲が街全体に蓋を

GENPASS 編集 三好
5 日前
![サヨナラの意味 [第1話 / 全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_71a5e35feb2241ce8b5f48a91e1ffb60~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_71a5e35feb2241ce8b5f48a91e1ffb60~mv2.webp)
![サヨナラの意味 [第1話 / 全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_71a5e35feb2241ce8b5f48a91e1ffb60~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_71a5e35feb2241ce8b5f48a91e1ffb60~mv2.webp)
サヨナラの意味 [第1話 / 全4話]
【第1話】 ヨッシー ロンドンは、3月でもまだ冷える。 JLRのロンドン・オフィスで打ち合わせがあった。 ジャガー・ランドローバー。 電動化に向けてサプライチェーンを作り直そうとしている英国の老舗に、日本の部品メーカーとの橋渡しをする。 今回は5日間の出張だった。 水曜にコベントリーまで一度足を伸ばして、残りはロンドン市内で動く予定だった。 ホテルはClaridge'sにした。 メイフェア、ブルック・ストリート。 アールデコの内装と重い遮光カーテン。 ロンドンに来るときはここを使っていた。 月曜の夜、ソーホーに一人で出た。 Donzoko。 地下に降りる日本のウイスキーバーで、在ロンドンの日本人にも日本からの旅行者にも知られた店だ。 カウンターの端に座って、バランタイン17年を頼んだ。 静かに飲んで、翌日のことを整理して、早めに戻る。 そういう夜にするつもりだった。 少し先の席に、女が一人でいた。 日本人だろうと思った。確信ではない。 ただ全体の空気がそう見えた。 ストローでグラスをゆっくりかき混ぜる手つき。 伏せている目の角度。 こういう細かい

GENPASS 編集 三好
6 日前
![全部、夢のまま [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_a072990d0c3d4e168b96eebeb196ffcd~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_a072990d0c3d4e168b96eebeb196ffcd~mv2.webp)
![全部、夢のまま [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_a072990d0c3d4e168b96eebeb196ffcd~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_a072990d0c3d4e168b96eebeb196ffcd~mv2.webp)
全部、夢のまま [最終話]
【最終話】 全部、夢のまま 前日、どこかに連れていくつもりはなかった。 夕方にロビーで会って、近くのカフェに入った。 観光でも、ディナーでもない時間だった。 ただ座っていた。 コーヒーを飲んだ。 何かを話したが、あとから何を話したか思い出せない種類の会話だった。 マニラのことを話した。 フィリピンの話をした。 何度来ても旅行者の目線しかないと俺が言うと、 「三好さんには永遠に旅行者の目線でいてほしい」とベラが言った。 「なぜ」と聞くと、 「そういう目で見られると、自分も少し違う場所に見える気がするから」と答えた。 それがこの4日間で一番正直な言葉だった。 「明日、何時のフライトですか」 「午後一番の便です」 彼女が少し笑った。 でも目は笑っていなかった。 それが何を意味しているか、俺にはわかっていた。 彼女が何を計算しているかも、察しはついていた。 「三好さん」 「ベラ」 彼女が止まった。 俺は軽く首を振った。 それだけで十分だった。 夜、ホテルの前で別れた。 「また明日」とは、どちらも言わなかった。 それが答えだった。 翌朝。 鏡の中に白いドレ

GENPASS 編集 三好
7月20日
![全部、夢のまま [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_723e3ec2e715458f9c1bcc39060d71c0~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_723e3ec2e715458f9c1bcc39060d71c0~mv2.webp)
![全部、夢のまま [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_723e3ec2e715458f9c1bcc39060d71c0~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_723e3ec2e715458f9c1bcc39060d71c0~mv2.webp)
全部、夢のまま [第3話]
【第3話】 帰りたくない 翌朝、LINEが来た。 「ベラでいいですよ」 俺は一言だけ返した。 「わかりました、ベラ」 昼前に「今日の予定は?」と彼女が聞いてきた。 仕事はない日だった。 「なければ一緒に出ませんか」と返した。 「どこへ」と来たので 「あなたが行ったことのない場所」と答えた。 「マニラで?」 「知ってます」 待ち合わせはホテルのロビーにした。 連れていったのはBlackbird。 アヤラ・トライアングル・ガーデンズの一角に立つ、 1937年建造の旧ニールソン空港ターミナルをそのまま使ったレストランだ。 マカティに来るたびに一度は入りたくなる場所がある。 アールデコの高い天井。 木のインテリアと丸窓。 窓の外に現代のマカティの高層ビル群が見える。 かつて滑走路だった場所に、今は高層ビルが並んでいる。 その対比が、この場所のすべてを語っていた。 スモークドサーモンのプレート₱750。 シンプルだが、素材が隠れていない。 食べることが目的じゃない。 空気を食べる場所だ。 かつて人々が出発し、帰ってきた場所。 この建物を設計した人間は、帰っ

GENPASS 編集 三好
7月19日
![全部、夢のまま [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_f371f95bafe743efa7804c815d914e89~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_f371f95bafe743efa7804c815d914e89~mv2.webp)
![全部、夢のまま [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_f371f95bafe743efa7804c815d914e89~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_f371f95bafe743efa7804c815d914e89~mv2.webp)
全部、夢のまま [第2話]
【第2話】 ベラ バーはまだ静かだった。 「……少し、か」と彼女が繰り返した。 少し笑った。 「スマホの画面のことです。Fiancé、って出てたでしょう」 「ええ」 「見られましたね」 少し間があった。 俺は何も言わなかった。 「さっきの方、家族の古い知人なんです」と彼女が続けた。 「私が婚約していることを知っている人で。一人でバーにいるところを見られたら、父に伝わります」 英語だった。 説明のつもりで言ったのかもしれない。 それとも、言葉にすることで自分でも整理したかったのかもしれない。 俺には説明を聞いた気がしなかった。 そういう理由で行動を制限されている人間の話を、いつも聞いている気がした。 「その話、好きですか」 「え?」 「今あなたが生きている話のことです」 彼女は少し考えた。 「好きかどうかで考えたことがなかったです」 「なぜ」 「決まっていることを好きかどうか考えるのは、時間の無駄な気がして」 「時間の無駄じゃないですよ」 それだけ言った。それ以上は言わなかった。 彼女が俺を見た。 「どうしてそんなことを言うんですか」...

GENPASS 編集 三好
7月18日
![全部、夢のまま [第1話 / 全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_24e975e4072642e5831c4663f8ef3d61~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_24e975e4072642e5831c4663f8ef3d61~mv2.webp)
![全部、夢のまま [第1話 / 全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_24e975e4072642e5831c4663f8ef3d61~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_24e975e4072642e5831c4663f8ef3d61~mv2.webp)
全部、夢のまま [第1話 / 全4話]
【第1話】 Reyes家の娘 マニラには、何度来ても同じ重さで迎えられる。 ニノイ・アキノ国際空港を出た瞬間、湿気が全身に貼りつく。 南国の蒸し暑さに慣れているつもりでいても、マニラのそれはバンコクともジャカルタとも違う。 人の密度と、古いディーゼルの排気と、どこか遠くから漂う金の匂いが溶け合った空気が、街全体を低く覆っている。 それがこの街だ。好きでも嫌いでもない。 ただ毎回、同じ感触で体に入ってくる。 マニラは3度目だった。 自動車関連の商談。 日系メーカーのEV展開に向けた、フィリピン大手ディーラーグループとのサプライチェーン再設計が担当だ。 数ヶ月、先方の意思決定が動かない状態が続いていた。 キーマンがリスクを嫌がっている。 その逃げ道を塞ぐ形で、今週中に決着をつける。 そのつもりでマニラに入った。 チェックインしたのはRaffles Makati。 マカティのアヤラ・センターに隣接する、白いファサードが遠くから目立つホテルだ。 先方が手配してくれた。 翌日の本商談に備えて、前日の今夜、ホテルで開かれるチャリティーガラに顔を出す約束があっ

GENPASS 編集 三好
7月17日
![夜明けまで強がらなくていい [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_a5feea3df1674f2db836d786a249df4a~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_a5feea3df1674f2db836d786a249df4a~mv2.webp)
![夜明けまで強がらなくていい [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_a5feea3df1674f2db836d786a249df4a~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_a5feea3df1674f2db836d786a249df4a~mv2.webp)
夜明けまで強がらなくていい [最終話]
【最終話】 夜明けまで強がらなくていい 扉が開いた。 部屋は暗かった。 ゴックが先に入って、小さな間接照明だけをつけた。 窓の外にタイ湖の黒い水面が見えた。 「飲む?」と聞かれた。 「いらない」と答えた。 ゴックは振り返らずに言った。 「べつに、今夜だけだから」 橙色の明かりの中で、こちらを向かないまま言った。 強がりだった。 でも強がりにしては、声が少しだけ静かだった。 「わかりました」 それ以外は何も言わなかった。 ワンピースの下のNgọcは、思ったより素直だった。 165センチ、52キロ。 昼間から想像していた輪郭が、暗い部屋の中で全部本物になった。 細身の体に、重力に逆らうような均整がある。 鎖骨から腰、膝から足首まで、削り出した翡翠のような細さと強さが同居していた。 細いのに、どこも省略されていない。 均整というより、全部が主張をやめない体だった。 「べつに、今夜だけだから」と言った女が、この部屋の中でもう一度もそれを言わなかった。 強がりは、扉の外に置いてきたらしかった。 高飛車なCAじゃない。 VIPラウンジの話をする女じゃない。.

GENPASS 編集 三好
7月13日
![夜明けまで強がらなくていい [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_3b7fb9ebbfb4473387108a8038986240~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_3b7fb9ebbfb4473387108a8038986240~mv2.webp)
![夜明けまで強がらなくていい [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_3b7fb9ebbfb4473387108a8038986240~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_3b7fb9ebbfb4473387108a8038986240~mv2.webp)
夜明けまで強がらなくていい [第3話]
【第3話】 翡翠の鎧 「暇?」 三文字だった。 時刻は午前十一時。 ホテルのロビーでコーヒーを飲んでいた俺のスマホに、ゴックからLINEが届いた。 「暇じゃないけど、暇にできる」 そう返すと、十五分後にホテルの前にゴックが現れた。 ノースリーブのロングワンピース、サングラス、小さなショルダーバッグ。 昨日と一昨日の格好より、今日は少し軽い。 「案内してあげる」と言った。 「どこへ?」 「タイ湖。行ったことある?」 「ない」 「何度もハノイに来てるのに?」 「仕事で来ていたから」 ゴックはサングラスの奥で目を細めた。 「……もったいない」と呟いた。 責めているわけではなかった。 ただ、わずかに惜しそうだった。 先に昼を食べようとゴックが言った。 連れて行かれたのは旧市街の路地にある屋台だった。 Bánh mì Hùng。 石畳の路上に三テーブルだけ並んでいて、厨房は窓口のようなカウンターだけだ。 バイクが通るたびに排気ガスが混じるような場所だった。 「ここ、観光客は絶対来ない場所じゃないですか」 「だから連れてきた」 「なんで俺を?」 「……べつに

GENPASS 編集 三好
7月12日
![夜明けまで強がらなくていい [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_f243a2de85e14fd59ceeb273d2686f9e~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_f243a2de85e14fd59ceeb273d2686f9e~mv2.webp)
![夜明けまで強がらなくていい [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_f243a2de85e14fd59ceeb273d2686f9e~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_f243a2de85e14fd59ceeb273d2686f9e~mv2.webp)
夜明けまで強がらなくていい [第2話]
【第2話】 腹、減ってますよね 翌日の午後、俺は旧市街を歩いていた。 午前中のVinFastとの継続打ち合わせが終わって、 ホテルに戻るより先にホアンキエム湖の周りを一周したくなった。 ハノイに来るたびにそうする。理由はない。 ただ、この都市はバイクの波に押し込まれながら歩くのが一番落ち着く。 カフェの前に、見覚えのある脚があった。 ゴックだった。 白いワンピースに、黒いパンプス。 昨日より少し明るい格好だ。 その前に、スーツを着た欧米系の男が立っていた。 五十代半ば、体格がいい、腕時計が光っている。 男がゴックの腕を掴もうとした。 ゴックは一歩引いた。 それだけだった。 俺は止まった。 介入はしなかった。 する必要があるとは思えなかった。 男がまた何か言う。 ゴックは動じない。 完璧に動じていない。 低い声で何かを言った。 男がわずかに後退した。 もう一言、ゴックが言った。 男は去った。 ゴックは男が去った方向を一瞬だけ見ていた。 それから振り返った。 目が合った。 「……見てたの?」 「見てた」 「助けなかった?」 「必要なさそうだったから」

GENPASS 編集 三好
7月11日
![夜明けまで強がらなくていい [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_f9a9560407224edd84dae13d9d24afec~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_f9a9560407224edd84dae13d9d24afec~mv2.webp)
![夜明けまで強がらなくていい [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_f9a9560407224edd84dae13d9d24afec~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_f9a9560407224edd84dae13d9d24afec~mv2.webp)
夜明けまで強がらなくていい [第1話/全4話]
【第1話】Vivianと呼べ ハノイには、何度来ても慣れない。 バイクの流れは法則なく交差し、クラクションが重なり、 揚げ油と排気ガスが混じった熱い空気が路面から立ち上る。 六月の午後は、空港を出た瞬間に汗をかく。 それでもこの都市は生きている。 そこが好きで嫌いだ。 タクシーがミーディン地区に入ると、VinFastの新しいビルが見えた。 ベトナム初の国産EVメーカーだ。 一年半前から代理店契約の交渉をしていた。 今回のハノイ出張は、その最終調整だった。 ロビーで待っていたのが、ミン・ティ・ハだった。 「三好さん、ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」 黒のパンツスーツ、ショートカット、丁寧に選ばれた笑顔。三十二歳。 VinFastのキーアカウントマネージャーで、商談相手としてはとても優秀だったが、この日の議題は少し難しかった。 EVバッテリーの保証範囲をめぐる条件で、先方の法務部門が難色を示していた。 「欧米向けの基準を日本市場に適用することは困難だ」という主張で、 ミンが通訳しながら双方の顔色をうかがっていた。 議論が煮詰まってき

GENPASS 編集 三好
7月10日
![Out of the blue [動画編]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_8570256b8874422eadb8038acbdfe781f000.jpg/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_30,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_8570256b8874422eadb8038acbdfe781f000.webp)
![Out of the blue [動画編]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_8570256b8874422eadb8038acbdfe781f000.jpg/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_90,enc_avif,quality_auto/37d521_8570256b8874422eadb8038acbdfe781f000.webp)
Out of the blue [動画編]
週末小説の2026年7月3日~6日に投稿させていただいた Out of the blue [全4話] の動画編(約10分)になります。 パリのモデル、エロイーズと三好の パリと東京を舞台にした 大人の短編ドラマです。 出張でパリに来た日本人ビジネスマン・三好。 モビリティショーで偶然出会ったフランス人モデルのエロイーズ。 「まあ、名刺交換くらいで終わるよな」のはずが、 気づいたらパリの夜を一緒に過ごしていました。 AIあるあるとして、セリフのイントネーションが 若干訛っているシーンがあります。 「ランウェイ」が「ランウェール」になってたり、 「バーテンダー」の発音が微妙だったり。 字幕で補完しているシーンもありますが、 これもAI生成ドラマの味ということで、ご了承ください。 ⇒ 小説「Out of the blue 第1話」は、こちらから

GENPASS 編集部 漫画担当
7月9日
![Out of the blue [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_c6da03f917b34d2783c9aa31ba29b26e~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_c6da03f917b34d2783c9aa31ba29b26e~mv2.webp)
![Out of the blue [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_c6da03f917b34d2783c9aa31ba29b26e~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_c6da03f917b34d2783c9aa31ba29b26e~mv2.webp)
Out of the blue [最終話]
【最終話】 Out of the blue 東京の秋は、パリより一足遅い。 10月末のジャパンモビリティショーは、東京ビッグサイトの全館を使う大規模な展示会だった。 旧東京モーターショーの名称を改め、EVとモビリティの未来を掲げるこのイベントに、今年はStellantisが単独ブースを出展した。 三好の会社はそのサプライヤー側として、ブース内の一角に小さなコーナーを設けていた。 「三好さん、明日の午後のプレゼン、追加で5分もらえることになりました」 山田が書類を持ってきた。 「わかった」と俺は言った。 「資料の修正を頼む」 山田が去って、ブースに一人になった瞬間、スマホが振動した。 DMだった。Instagramのアカウント。見覚えがあった。 『三好、東京にいる?私、今週日本にいる。 ジャパンモビリティショーのBMWブースでモデルの仕事。会えたら嬉しいな』 エロイーズ・マルタン。 パリから戻って、5ヶ月が経っていた。 翌日の午前、BMWのブースの前を通ったとき、遠くから目が合った。 エロイーズはEVコンセプトカーの横に立っていた。...

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7月6日
![Out of the blue [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_cffd07679efd436ba948688ff3eb7188~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_cffd07679efd436ba948688ff3eb7188~mv2.webp)
![Out of the blue [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_cffd07679efd436ba948688ff3eb7188~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_cffd07679efd436ba948688ff3eb7188~mv2.webp)
Out of the blue [第3話]
【第3話】 マレのアパルトマン 5区の夜は静かだった。 エロイーズのアパルトマンは4階建てのオスマン様式の建物で、天井が高く、窓が大きかった。 セーヌ川までは歩いて3分。 ベランダからはアルシュヴェック橋のランプが見えた。 ブルゴーニュの白を二人で空けた。 ドメーヌ・ルフレーヴ、2020年。 エロイーズが選んだ。 仕事柄、ワインの知識はそれなりにあるが、自分では選ばない価格帯だった。 棚には本当に、フィルムカメラが並んでいた。 ライカM6、ニコンFM2、コンタックスT2。 現役で使っているものだと言った。 「デジタルは速すぎる」と彼女は言った。 「私は待ちたい。現像するまで、何が撮れたかわからない方が好き」 その感覚は理解できる気がした。 自動車の商談も、結論が出るまでわからない。 待つことで、何かが熟成される。 「なぜ東京に行きたいんですか」と俺は聞いた。 エロイーズはしばらく答えなかった。 窓の外を見ていた。 「パリは変わりすぎた」と彼女は言った。 「観光客のための街になっている。昔のパリは、もっと汚くて、もっと本物だった。東京はまだ、本物が

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7月5日
![Out of the blue [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_74766cbfce854655b4af3ba5a57440ff~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_74766cbfce854655b4af3ba5a57440ff~mv2.webp)
![Out of the blue [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_74766cbfce854655b4af3ba5a57440ff~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_74766cbfce854655b4af3ba5a57440ff~mv2.webp)
Out of the blue [第2話]
【第2話】 パパラッチより速く エロイーズからメッセージが届いたのは、翌朝7時だった。 「昨日はありがとう。もし今日も時間があれば」 どこで俺の連絡先を手に入れたのかは書いていなかった。 Renaultのブースで俺のことを調べたのかもしれない。 名刺交換はしていない。 それでも手に入れた。 午前中にStellantisとの会議があった。 先方のVPは予想以上に前向きで、次のステップを具体的に話し合う段階まで進んだ。 ランチ後に少し時間が空く。 「午後2時なら」と返した。 待ち合わせはマレ地区にした。 エロイーズが指定してきた。 観光客の多いマレではなく、少し奥に入ったリュー・デ・ロザンヌの角。 確かに地元の人間しか待ち合わせに使わない場所だった。 エロイーズは黒いコートに白いシャツだった。 昨夜と印象が違う。 仕事の顔ではなく、私服の顔だった。 「ありがとうございます、来てくれて」と彼女は言った。 「こちらこそ」と俺は答えた。 マレを歩いた。 エロイーズが案内した。 17世紀の邸宅が並ぶ通り、壁一面に描かれたストリートアートの路地、小さなヴィンテ

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7月4日
![Out of the blue [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_a51e818d30a04de68dbc7a3cdaeba250~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_a51e818d30a04de68dbc7a3cdaeba250~mv2.webp)
![Out of the blue [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_a51e818d30a04de68dbc7a3cdaeba250~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_a51e818d30a04de68dbc7a3cdaeba250~mv2.webp)
Out of the blue [第1話/全4話]
【第1話】 彼女は最初から、知っていた 10月のパリは、東京より一足早く冬の匂いがする。 Porte de Versaillesの展示会場に、世界中の自動車メーカーが集まっていた。 隔年開催のパリモーターショー ——Mondial de l'Auto。Stellantisの新型EV、BMWの水素エンジン、トヨタが欧州向けに出したコンセプトカー。 どのブースも、見えない未来を売っていた。 三好は商談メモを確認しながら、Stellantisのブースを抜けた。 翌日の午前中、調達部門のVPとの会議がある。 欧州のEV化加速に伴うサプライヤー見直しで、日本側の部品メーカーをどう組み込むか。 その橋渡し役として呼ばれていた。 今日の視察は準備だ。 相手が何を見せたいのかを確かめておきたかった。 Citroënのブースを通り抜けようとしたとき、人混みの中を走り抜ける影があった。 速かった。ジャケットの右手に何か握っている。 後ろで叫び声がした。 フランス語だったが「財布」という単語だけ聞き取れた。 男はこちらに向かってきた。 反射的に動いた。 右腕を取って、

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7月3日
![シンクロニシティ [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_1c792288e9c343939a379fceff923f4d~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_1c792288e9c343939a379fceff923f4d~mv2.webp)
![シンクロニシティ [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_1c792288e9c343939a379fceff923f4d~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_1c792288e9c343939a379fceff923f4d~mv2.webp)
シンクロニシティ [最終話]
【最終話】 シンクロニシティ 1ヶ月後、東京で会った。 場所は代官山のIvy Placeにした。 泉町にある古い建物で、外壁をツタが覆っている。 夜はテラスに出ると、照らされた木々が見えた。 ヨーロッパのビストロを少しだけ東京に翻訳したような店で、騒々しくなく、気取りすぎてもいない。 特に理由はなかった。 代官山なら七瀬が来やすいと思っただけだった。 七瀬は時間通りに来た。 薄いベージュのセーターに、細いパンツだった。 カメラバッグは持っていなかった。 首にカメラを提げていない七瀬は、少し違う人に見えた。 デトロイトで廃墟を撮っていたときの顔でも、ヒューストンの嵐の夜の顔でもない。 東京の七瀬だった。 「久しぶりですね」と七瀬は言った。 「1ヶ月ぶりですね」 「早いですか」 「そうでもないですね」と俺は言った。 嘘ではなかった。 少しだけ声が低かった。 東京では、七瀬の声がデトロイトより少し低く聞こえた。 ハリケーンの夜に聞いた声でもなく、深夜のホテルの部屋で聞いた声でもない。 普通の声だった。 七瀬が席に着いた。 メニューを開いた。 会話は弾ん

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6月29日
![シンクロニシティ [第5話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_76e271e16af747f58753a5fe296cbbc4~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_76e271e16af747f58753a5fe296cbbc4~mv2.webp)
![シンクロニシティ [第5話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_76e271e16af747f58753a5fe296cbbc4~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_76e271e16af747f58753a5fe296cbbc4~mv2.webp)
シンクロニシティ [第5話]
【第5話】 もう一度、指先が Selden Standardは、ミッドタウンにある。 2013年開業、James Beard財団のノミネートを複数回受けているファームトゥテーブルのレストランだ。 木と漆喰とレンガが混在した内装は工業的でミニマルだが、温かみがある。 席に着くと、地元の農家と生産者の名前が黒板に書かれている。 入ったとき、この店を選んだのは特に理由がなかった。 ホテルから歩ける距離で、評判がよかった。 それだけだった。 窓際の席に七瀬がいた。 カメラを隣の椅子に置いて、メニューを見ていた。 気づいた。目が合った。 どちらも、最初は何も言わなかった。 俺が席に案内されたのは、七瀬のテーブルの隣だった。 偶然だった。 偶然しかありえなかった。 「デトロイトも一緒ですね」と七瀬が言った。 「そうですね」 「信じられますか、これ」 「信じるしかないですね」 七瀬が笑った。 ヒューストンのバーで聞いた笑いと、同じ温度をしていた。 「隣に来ませんか」と七瀬は言った。 「一人で食べるより、話した方がいいと思って」 「そうですね」 席を移した。..

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6月29日
![シンクロニシティ [第4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_91f617a76c074aab8bec08a8fcc62b47~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_91f617a76c074aab8bec08a8fcc62b47~mv2.webp)
![シンクロニシティ [第4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_91f617a76c074aab8bec08a8fcc62b47~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_91f617a76c074aab8bec08a8fcc62b47~mv2.webp)
シンクロニシティ [第4話]
【第4話】 モーター・シティ デトロイトの空港に降り立ったのは、午前10時だった。 空港からダウンタウンへ向かった。 タクシーの窓から、デトロイトが入ってきた。 かつてアメリカ最大の自動車産業都市だった街は、 1950年代のピーク時に180万人いた人口が、今は70万人を切っている。 廃墟になったビルが風景の中にある。 でも同時に、再開発が進んでいる街区もある。 解体された工場跡に、スタジオやカフェが入っている。 ガラスの塔と、蔦の絡まった廃ビルが、同じ通りに並んでいる。 ふたつの街が、同じ地図の上に存在していた。 更地もあった。 かつてビルが建っていた場所が、今は空き地になっていた。 何も生えていない平らな地面に、雑草だけがあった。 撤去されたのか、燃えたのか、ただ朽ちたのか。 東京なら翌月には別の何かが建っている。 デトロイトは、そのままにしておく。 そこにあった痕跡を、消さずに残しておく。 七瀬が撮りに来たのは、そういうことかもしれない、と思った。 七瀬が撮りに来たのはわかる、と思った。 ヒューストンで「なくなる前に残しておきたいんです」と言

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6月28日
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