top of page


ムオンタンホテルマッサージ ベトナム ダナン
ダナンにある Muong Thanh Grand Hotel。 その中にあるホテル内マッサージ、いわゆるムオンタンホテルマッサージである。 場所はホテルの中。 外に怪しい看板は出ていない。 普通にホテル。エレベーター。廊下。4階。 この「ホテル内」という言葉には、不思議な安心感がある。 人はなぜか、ホテルの中にあるだけで少しちゃんとしている気がしてしまう。 だが、それは大きな勘違いである。 場所がホテルでも、向かっている人間の中身がホテル品質とは限らない。 場所 俺は受付で「VIP MASSAGE」を選んだ。 つまり、この時点でもう分かっている。 俺も分かっている。 受付も分かっている。 たぶんホテルの4階の空気も分かっている。 なのに俺は、なぜか紳士の顔をしていた。 「旅行で疲れたので、少しマッサージを」 みたいな顔。 嘘をつくな。 お前は疲労回復だけでVIPという三文字を選んだのか。 肩こりにそんなに課金するタイプだったか。 エレベーターで4階へ上がる。 照明も普通。空気も普通。 だからこそ、俺の中のやましさだけが異常に目立つ。 部屋に入る。

GENPASS 編集 八田
7月7日
![Out of the blue [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_c6da03f917b34d2783c9aa31ba29b26e~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_c6da03f917b34d2783c9aa31ba29b26e~mv2.webp)
![Out of the blue [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_c6da03f917b34d2783c9aa31ba29b26e~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_c6da03f917b34d2783c9aa31ba29b26e~mv2.webp)
Out of the blue [最終話]
【最終話】 Out of the blue 東京の秋は、パリより一足遅い。 10月末のジャパンモビリティショーは、東京ビッグサイトの全館を使う大規模な展示会だった。 旧東京モーターショーの名称を改め、EVとモビリティの未来を掲げるこのイベントに、今年はStellantisが単独ブースを出展した。 三好の会社はそのサプライヤー側として、ブース内の一角に小さなコーナーを設けていた。 「三好さん、明日の午後のプレゼン、追加で5分もらえることになりました」 山田が書類を持ってきた。 「わかった」と俺は言った。 「資料の修正を頼む」 山田が去って、ブースに一人になった瞬間、スマホが振動した。 DMだった。Instagramのアカウント。見覚えがあった。 『三好、東京にいる?私、今週日本にいる。 ジャパンモビリティショーのBMWブースでモデルの仕事。会えたら嬉しいな』 エロイーズ・マルタン。 パリから戻って、5ヶ月が経っていた。 翌日の午前、BMWのブースの前を通ったとき、遠くから目が合った。 エロイーズはEVコンセプトカーの横に立っていた。...

GENPASS 編集 三好
7月6日
![Out of the blue [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_cffd07679efd436ba948688ff3eb7188~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_cffd07679efd436ba948688ff3eb7188~mv2.webp)
![Out of the blue [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_cffd07679efd436ba948688ff3eb7188~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_cffd07679efd436ba948688ff3eb7188~mv2.webp)
Out of the blue [第3話]
【第3話】 マレのアパルトマン 5区の夜は静かだった。 エロイーズのアパルトマンは4階建てのオスマン様式の建物で、天井が高く、窓が大きかった。 セーヌ川までは歩いて3分。 ベランダからはアルシュヴェック橋のランプが見えた。 ブルゴーニュの白を二人で空けた。 ドメーヌ・ルフレーヴ、2020年。 エロイーズが選んだ。 仕事柄、ワインの知識はそれなりにあるが、自分では選ばない価格帯だった。 棚には本当に、フィルムカメラが並んでいた。 ライカM6、ニコンFM2、コンタックスT2。 現役で使っているものだと言った。 「デジタルは速すぎる」と彼女は言った。 「私は待ちたい。現像するまで、何が撮れたかわからない方が好き」 その感覚は理解できる気がした。 自動車の商談も、結論が出るまでわからない。 待つことで、何かが熟成される。 「なぜ東京に行きたいんですか」と俺は聞いた。 エロイーズはしばらく答えなかった。 窓の外を見ていた。 「パリは変わりすぎた」と彼女は言った。 「観光客のための街になっている。昔のパリは、もっと汚くて、もっと本物だった。東京はまだ、本物が

GENPASS 編集 三好
7月5日
![Out of the blue [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_74766cbfce854655b4af3ba5a57440ff~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_74766cbfce854655b4af3ba5a57440ff~mv2.webp)
![Out of the blue [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_74766cbfce854655b4af3ba5a57440ff~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_74766cbfce854655b4af3ba5a57440ff~mv2.webp)
Out of the blue [第2話]
【第2話】 パパラッチより速く エロイーズからメッセージが届いたのは、翌朝7時だった。 「昨日はありがとう。もし今日も時間があれば」 どこで俺の連絡先を手に入れたのかは書いていなかった。 Renaultのブースで俺のことを調べたのかもしれない。 名刺交換はしていない。 それでも手に入れた。 午前中にStellantisとの会議があった。 先方のVPは予想以上に前向きで、次のステップを具体的に話し合う段階まで進んだ。 ランチ後に少し時間が空く。 「午後2時なら」と返した。 待ち合わせはマレ地区にした。 エロイーズが指定してきた。 観光客の多いマレではなく、少し奥に入ったリュー・デ・ロザンヌの角。 確かに地元の人間しか待ち合わせに使わない場所だった。 エロイーズは黒いコートに白いシャツだった。 昨夜と印象が違う。 仕事の顔ではなく、私服の顔だった。 「ありがとうございます、来てくれて」と彼女は言った。 「こちらこそ」と俺は答えた。 マレを歩いた。 エロイーズが案内した。 17世紀の邸宅が並ぶ通り、壁一面に描かれたストリートアートの路地、小さなヴィンテ

GENPASS 編集 三好
7月4日
![Out of the blue [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_a51e818d30a04de68dbc7a3cdaeba250~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_a51e818d30a04de68dbc7a3cdaeba250~mv2.webp)
![Out of the blue [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_a51e818d30a04de68dbc7a3cdaeba250~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_a51e818d30a04de68dbc7a3cdaeba250~mv2.webp)
Out of the blue [第1話/全4話]
【第1話】 彼女は最初から、知っていた 10月のパリは、東京より一足早く冬の匂いがする。 Porte de Versaillesの展示会場に、世界中の自動車メーカーが集まっていた。 隔年開催のパリモーターショー ——Mondial de l'Auto。Stellantisの新型EV、BMWの水素エンジン、トヨタが欧州向けに出したコンセプトカー。 どのブースも、見えない未来を売っていた。 三好は商談メモを確認しながら、Stellantisのブースを抜けた。 翌日の午前中、調達部門のVPとの会議がある。 欧州のEV化加速に伴うサプライヤー見直しで、日本側の部品メーカーをどう組み込むか。 その橋渡し役として呼ばれていた。 今日の視察は準備だ。 相手が何を見せたいのかを確かめておきたかった。 Citroënのブースを通り抜けようとしたとき、人混みの中を走り抜ける影があった。 速かった。ジャケットの右手に何か握っている。 後ろで叫び声がした。 フランス語だったが「財布」という単語だけ聞き取れた。 男はこちらに向かってきた。 反射的に動いた。 右腕を取って、

GENPASS 編集 三好
7月3日


THE333 バンコク
バンコク・スクンビット33にあるNuru / Soapy系マッサージ店、THE333。 プロンポン周辺からも行きやすく、韓国系ラウンジっぽい雰囲気もあり、 若いセラピスト、清潔な個室、Nuru、Soapy、4Hands、Couple、Party系までメニューが細かい。 LINEやTelegramで事前予約できるらしいので、バンコク夜遊び初心者でも比較的行きやすいタイプの店である。 ここで俺は思った。 今回はちゃんと記事取材だからちゃんとレビューしよう。 料金を見る。 場所を見る。 部屋を見る。 女の子の雰囲気を見る。 サービスの流れを見る。 俺は今日、ただのスケベではない。 GENTPASSPORTの名を背負った取材調査である。 バンコクの夜に潜入し、読者のために情報を持ち帰る男。 言うなれば、欲望界の伊能忠敬である。 ただし、地図を作る場所はだいぶ終わっている。 場所 THE333に入ると、まず思ったのは「きれいだな」だった。 最近できたのか、こういう店で清潔感があるのはかなり大事だ。 汚い部屋でヌルヌルされても、それは癒やしではなく、ただの衛

GENPASS 編集 八田
7月2日


亜太三温暖 台北
台北アリーナ直下の「台北小巨蛋」駅から徒歩4~5分。 「微風南京」なる大型商業ビルの15階が今回の目的地である。 とても風俗店の紹介とは思えない導入だ。 それもそのはず、この店は表向きには、多少スケールが大きいだけの一般的なサウナ施設にすぎない。(デパート上階にサウナの時点でシュールなのはおいておく) 場所 15階に上がるまでのエレベーターの中が、俺の滾る熱気で既にサウナと化している。 扉が開いた瞬間にお代を請求されないか、心をヒヤヒヤさせることで勝手に整ってから 戦地に足を踏み入れると、まず目に入ったのは謎の噴水と石膏像。 なんて豪華な施設、と感動するところだろうが、 煩悩で曇った俺の目にはフィニッシュの暗喩にしか見えない。 受付で鍵をもらって奥に進むと更に受付、もとい靴を預かる兄ちゃんがいて、 そこを通過するとようやく脱衣所へ。 なにやらロッカーの鍵穴が2つある。 申し訳ないが2つ目の穴は趣味じゃないので、 鍵が刺さる方だけ閉めてさっさと浴場へ。 入口の両脇にはちっこいジムと飲料売り場。 謎に歯磨き粉が置かれたシャワースペース。 サウ

GENPASS 匿名協力記者
7月1日


ラオンダオホテル路地奥置屋 ビエンチャン
ラオス・ビエンチャンには、観光地の顔と、観光地ではない顔がある。 昼間はメコン川沿いを歩き、カフェでコーヒーを飲み 「ラオスってゆっくりしてていいな」みたいな顔ができる。 だが夜になると、人間の中にいる別の自分が起きてくる。 旅情ではない。 情緒でもない。 もっとしょうもない、パスポートに押せない種類のスタンプを欲しがる自分である。 場所:ホテル横の通り奥 ラオンダオホテル1の周辺。 ホテル横の道を奥へ入ると、空気が変わる。 表の通りにあったゆるさが、数メートル進んだだけで急に消える。 明かりの色も、音の響き方も、空気も違う。 観光のビエンチャンから、急に“裏口のビエンチャン”に切り替わる。 すると、するどい目つきの少年たちが数人寄ってくる。 「レディー?」「ガール?」 腕を引く。 距離が近い。 薄笑いしているが、空気は軽くない。 ここでまず、自分の中の旅慣れた男が死ぬ。 俺は海外夜遊びに詳しい顔をしていた。 だが、少年たちに囲まれた瞬間、 ただの迷い込んだ成人男性になった。 しかも、カメラや録音をしていないかチェックされる。 スマホ。ポケット。

GENPASS 編集 八田
6月30日
![シンクロニシティ [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_1c792288e9c343939a379fceff923f4d~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_1c792288e9c343939a379fceff923f4d~mv2.webp)
![シンクロニシティ [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_1c792288e9c343939a379fceff923f4d~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_1c792288e9c343939a379fceff923f4d~mv2.webp)
シンクロニシティ [最終話]
【最終話】 シンクロニシティ 1ヶ月後、東京で会った。 場所は代官山のIvy Placeにした。 泉町にある古い建物で、外壁をツタが覆っている。 夜はテラスに出ると、照らされた木々が見えた。 ヨーロッパのビストロを少しだけ東京に翻訳したような店で、騒々しくなく、気取りすぎてもいない。 特に理由はなかった。 代官山なら七瀬が来やすいと思っただけだった。 七瀬は時間通りに来た。 薄いベージュのセーターに、細いパンツだった。 カメラバッグは持っていなかった。 首にカメラを提げていない七瀬は、少し違う人に見えた。 デトロイトで廃墟を撮っていたときの顔でも、ヒューストンの嵐の夜の顔でもない。 東京の七瀬だった。 「久しぶりですね」と七瀬は言った。 「1ヶ月ぶりですね」 「早いですか」 「そうでもないですね」と俺は言った。 嘘ではなかった。 少しだけ声が低かった。 東京では、七瀬の声がデトロイトより少し低く聞こえた。 ハリケーンの夜に聞いた声でもなく、深夜のホテルの部屋で聞いた声でもない。 普通の声だった。 七瀬が席に着いた。 メニューを開いた。 会話は弾ん

GENPASS 編集 三好
6月29日
![シンクロニシティ [第5話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_76e271e16af747f58753a5fe296cbbc4~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_76e271e16af747f58753a5fe296cbbc4~mv2.webp)
![シンクロニシティ [第5話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_76e271e16af747f58753a5fe296cbbc4~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_76e271e16af747f58753a5fe296cbbc4~mv2.webp)
シンクロニシティ [第5話]
【第5話】 もう一度、指先が Selden Standardは、ミッドタウンにある。 2013年開業、James Beard財団のノミネートを複数回受けているファームトゥテーブルのレストランだ。 木と漆喰とレンガが混在した内装は工業的でミニマルだが、温かみがある。 席に着くと、地元の農家と生産者の名前が黒板に書かれている。 入ったとき、この店を選んだのは特に理由がなかった。 ホテルから歩ける距離で、評判がよかった。 それだけだった。 窓際の席に七瀬がいた。 カメラを隣の椅子に置いて、メニューを見ていた。 気づいた。目が合った。 どちらも、最初は何も言わなかった。 俺が席に案内されたのは、七瀬のテーブルの隣だった。 偶然だった。 偶然しかありえなかった。 「デトロイトも一緒ですね」と七瀬が言った。 「そうですね」 「信じられますか、これ」 「信じるしかないですね」 七瀬が笑った。 ヒューストンのバーで聞いた笑いと、同じ温度をしていた。 「隣に来ませんか」と七瀬は言った。 「一人で食べるより、話した方がいいと思って」 「そうですね」 席を移した。..

GENPASS 編集 三好
6月29日
![シンクロニシティ [第4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_91f617a76c074aab8bec08a8fcc62b47~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_91f617a76c074aab8bec08a8fcc62b47~mv2.webp)
![シンクロニシティ [第4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_91f617a76c074aab8bec08a8fcc62b47~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_91f617a76c074aab8bec08a8fcc62b47~mv2.webp)
シンクロニシティ [第4話]
【第4話】 モーター・シティ デトロイトの空港に降り立ったのは、午前10時だった。 空港からダウンタウンへ向かった。 タクシーの窓から、デトロイトが入ってきた。 かつてアメリカ最大の自動車産業都市だった街は、 1950年代のピーク時に180万人いた人口が、今は70万人を切っている。 廃墟になったビルが風景の中にある。 でも同時に、再開発が進んでいる街区もある。 解体された工場跡に、スタジオやカフェが入っている。 ガラスの塔と、蔦の絡まった廃ビルが、同じ通りに並んでいる。 ふたつの街が、同じ地図の上に存在していた。 更地もあった。 かつてビルが建っていた場所が、今は空き地になっていた。 何も生えていない平らな地面に、雑草だけがあった。 撤去されたのか、燃えたのか、ただ朽ちたのか。 東京なら翌月には別の何かが建っている。 デトロイトは、そのままにしておく。 そこにあった痕跡を、消さずに残しておく。 七瀬が撮りに来たのは、そういうことかもしれない、と思った。 七瀬が撮りに来たのはわかる、と思った。 ヒューストンで「なくなる前に残しておきたいんです」と言

GENPASS 編集 三好
6月28日
![シンクロニシティ [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_4ac15fc875d4451fb816cbc21824d326~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_4ac15fc875d4451fb816cbc21824d326~mv2.webp)
![シンクロニシティ [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_4ac15fc875d4451fb816cbc21824d326~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_4ac15fc875d4451fb816cbc21824d326~mv2.webp)
シンクロニシティ [第3話]
【第3話】 嵐の外 翌日もハリケーンは去らなかった。 起きてカーテンを開けると、窓の向こうに昨日と同じ空があった。 空港の誘導灯が、昼なのに点灯していた。 滑走路には飛行機が並んでいるが、どれも動いていなかった。 廊下に出た。 七瀬が廊下の窓の前に立っていた。 カメラを首から提げて、外を向いていた。 スウェットの上にデニムジャケットを羽織っていた。 昨日と違う顔をしていた。 空港のカウンターで言い合いをしていたときでも、バーで飲んでいたときでもない。 撮っているときの顔だった。 「撮れましたか」と声をかけた。 振り返った。「少し」と言って、カメラの液晶を向けてきた。 嵐の空港だった。 ガラス越しに撮った写真は、空港をまったく別のものにしていた。誘導灯が雨の中でにじんで、ターミナルのシルエットが霞んで、飛べない飛行機が暗がりの中に浮いていた。廃墟のように見えた。でも廃墟ではなかった。ただ、嵐の中にある空港だった。 「上手いですね」と俺は言った。 「お世辞ですか」 「いえ」 七瀬がカメラを戻した。「廃墟に見えますか」 「見えます」...

GENPASS 編集 三好
6月28日
![シンクロニシティ [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_d29f4f24234c44679b0977a7065faee9~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_d29f4f24234c44679b0977a7065faee9~mv2.webp)
![シンクロニシティ [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_d29f4f24234c44679b0977a7065faee9~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_d29f4f24234c44679b0977a7065faee9~mv2.webp)
シンクロニシティ [第2話]
【第2話】 オールドファッションド 1時間後、七瀬がバーに現れた。 空港で見たときとは別人のような顔をしていた。 トレンチコートの代わりに落ち着いたカーディガンを羽織っていて、黒髪をまとめ直していた。 疲れはまだ顔に残っていたが、さっきまでのぴりぴりした緊張感は消えていた。 シャワーを浴びてきたのがわかった。 「お待たせしました」と七瀬は言った。 「いえ」 七瀬はバーボンのオールドファッションドを頼んだ。 Napa & Ryeはホテルの1階にある。 カウンターと数脚の椅子、奥にテーブルが並んだ小さなバーだ。 空港ホテルのバーにしては落ち着いた内装で、琥珀色の照明の中にウイスキーのボトルが並んでいた。 ワインリストも充実している。 ただ今夜は、この店にいる客の誰も、そんなことを確認する余裕を持っていなかった。 「飲めるんですね」と俺は言った。 「ハリケーンのときくらい飲まないと」と七瀬は言った。 俺はマンハッタンを頼んだ。 バーテンダーがグラスを置いた。 七瀬がひと口飲んだ。 肩の力が、少し抜けた。 それまで空港でずっと張っていたものが、ここで初め

GENPASS 編集 三好
6月27日
![シンクロニシティ [第1話/全6話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_6567196317ff4a6696081c46c9cf6517~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_6567196317ff4a6696081c46c9cf6517~mv2.webp)
![シンクロニシティ [第1話/全6話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_6567196317ff4a6696081c46c9cf6517~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_6567196317ff4a6696081c46c9cf6517~mv2.webp)
シンクロニシティ [第1話/全6話]
【第1話】 ハリケーンの前 ハリケーンが来ていた。 ヒューストン・ジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル空港の出発フロアは、いつもと違う音をしていた。 アナウンスが途切れることなく流れ、カウンターに列が殺到し、フライトボードの「CANCELLED」が増え続けていた。 さっきまで30便だったのが、10分で40便になった。 人が動くたびにスーツケースがぶつかり合い、子どもが泣き、老人が壁際でスマホを握りしめていた。 俺のデトロイト行きの便も、30分前にキャンセルになった。 ハリケーン・ルイーズ。カテゴリー3。 テキサス湾岸に向けて北上中。 National Hurricane Centerが「48時間以内に上陸」と発表してから、空港の空気が変わった。 滑走路は閉鎖になり、全便が止まった。 行き場を失った乗客がカウンターに押し寄せた。 カウンターで手続きを終えて、次の便の空きを確認した。 乗れる便は最短でも明後日だった。 ホテルの手配を考え始めたそのとき、気がついた。 列が、動いていない女がいた。 カウンターの右端。4番レーンだった。...

GENPASS 編集 三好
6月26日


Apple Spa ダナン ベトナム
ベトナムはダナンにある韓国系スパ、Apple Spa。 最近できた店らしく、部屋数は少なめ。 6部屋ほどという話もある。 料金は30分1,500,000VND、60分2,000,000VND、90分2,500,000VNDあたり。 韓国式のアカスリ、オイル系のヌルっとしたマッサージ、若めのベトナム人セラピスト、そしてLINEなどで事前予約できる便利さ。 ここまで聞いた俺は思った。 なるほど。これは勝てる。 いつもの悪い癖だ。 場所 ダナンで「Apple Spa」と聞くと、なんだか爽やかである。 果物。清潔。健康。 朝のホテルビュッフェで出てくるカットフルーツ。 少なくとも、俺のような成人男性の煩悩が、 夜のダナンでニヤニヤしながら向かう名前ではない。 だが現実は違う。 名前が爽やかでも、向かっている人間が爽やかとは限らない。 リンゴの箱に、たまに変な芋虫が入っていることもある。 今回の芋虫は俺である。 Apple Spaは事前予約が大事らしい。 部屋数が6部屋しかなく少ないなら、なおさらだ。 LINEで予約しておけば、現地で無駄に待たなくていい。

GENPASS 編集 八田
6月24日
![帰り道は遠回りしたくなる [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_3ac212f4c24c4f3dbb7b18382e64a747~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_3ac212f4c24c4f3dbb7b18382e64a747~mv2.webp)
![帰り道は遠回りしたくなる [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_3ac212f4c24c4f3dbb7b18382e64a747~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_3ac212f4c24c4f3dbb7b18382e64a747~mv2.webp)
帰り道は遠回りしたくなる [最終話]
【最終話】 帰り道は遠回りしたくなる 最終日の商談は、午後から動いた。 タタのCPOが修正した条件を持ってきた。 前回より数字は動いていたが、まだ強気だった。 俺は資料を一枚出した。 「この水準だと、御社内の承認が通らない可能性がある」と言った。 理由を3つ述べた。先方が少し黙った。 CPOが隣のCFOに小声でヒンディー語で何か言った。 CFOが頷いた。 「修正しましょう」 契約書の草案を交わしたのは夕方6時だった。 握手をして、ロビーを出た。 空港に向かうタクシーに乗った。 Chhatrapati Shivaji Maharaj International Airportまでは、道が混めば1時間を超える。 夕暮れ時のムンバイは、渋滞と夕日と潮の匂いが混ざる。 街が色を変えていく時間帯だ。 スマホを開いた。 Priyaの連絡先があった。 昨夜、ドアの前で交換した。 メッセージを書き始めた。 「ムンバイを離れる前に。」 そこで止まった。 続きを書こうとした。 何度か書いては消した。 「また来ます」は嘘かもしれない。 「良かった」は軽すぎる。 「また

GENPASS 編集 三好
6月22日
![帰り道は遠回りしたくなる [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_af28e7289b1e45d79471fcd9b98ce87e~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_af28e7289b1e45d79471fcd9b98ce87e~mv2.webp)
![帰り道は遠回りしたくなる [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_af28e7289b1e45d79471fcd9b98ce87e~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_af28e7289b1e45d79471fcd9b98ce87e~mv2.webp)
帰り道は遠回りしたくなる [第3話]
【第3話】 アラビア海の側で MasqueはローワーパレルのRaghuvanshi Mills Compoundにある。 かつて綿花工場だった建物の中に、店がある。 高い天井、むき出しの梁、赤レンガの壁。 装飾ではなく、時間が作ったものだ。 シェフのPrateek Sadhuはヒマラヤの山岳地帯出身で、 インド亜大陸の先住民的な食材と現代の技法を組み合わせたコース料理を出す。 アジアのベストレストラン50に選ばれている。 テイスティングコースは一人5500ルピー。日本円で1万円ほど。 「ここも最初ですか」とPriyaが聞いた。 「はい」 「毎回来たことない店に連れて行くんですか」 「いい店なら調べればわかる」 Priyaが口元に少し笑みを作った。 最初の一皿は、黒いセラミックの皿に盛られた小さな料理だった。 発酵させたジャックフルーツと、野生のベリー、地元のスパイスを使ったエスプーマ。 口の中でほどけた瞬間に、甘みと酸みと土の香りが一度にくる。 これがインドなのか、と思った。 知っていたインドとは別の場所から来たものだった。 5皿目に、アラビア海

GENPASS 編集 三好
6月21日
![帰り道は遠回りしたくなる [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_d02e5cb4241d4c9696f2be1f0ee1c496~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_d02e5cb4241d4c9696f2be1f0ee1c496~mv2.webp)
![帰り道は遠回りしたくなる [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_d02e5cb4241d4c9696f2be1f0ee1c496~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_d02e5cb4241d4c9696f2be1f0ee1c496~mv2.webp)
帰り道は遠回りしたくなる [第2話]
【第2話】 クラブと、窓の外 翌夜7時ちょうどに、彼女は来た。 白いブレザーではなく、深いグリーンのワンピースだった。 俺の顔を見てから時計を見て、「ちょうど7時ですね」と英語で言った。 その一言だった。 この女は時間を守る側の人間だ。 そして、守ったことを主張しない。確認するだけだ。 カラ・ゴーダのRope Walk Laneにあるのに、Trishnaには看板らしい看板がない。 1981年の創業以来、変わらない。 Ajit Kapurが立ち上げたこの店を、いまは息子が厨房で守っている。 外観からは想像できない。 観光ガイドには載っているが、それを知って来る客と、知らずに来る客とでは、店との関係が少し違う。 「有名なんですか、ここ」とPriyaが聞いた。 「ムンバイで魚介を食べるなら、ここ以外考えなくていい」 「来たことはありますか」 「今日が最初です」 Priyaが少し口角を上げた。 それが笑いなのかどうか、判別が難しかった。 バター・ペッパー・ガーリック・クラブを頼んだ。 マッドクラブを使ったTrishnaの看板料理だ。 価格は時価で、この日

GENPASS 編集 三好
6月20日
![帰り道は遠回りしたくなる [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_9c98212112a544b4acd87dd2500ec49d~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_9c98212112a544b4acd87dd2500ec49d~mv2.webp)
![帰り道は遠回りしたくなる [第1話/全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_9c98212112a544b4acd87dd2500ec49d~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_9c98212112a544b4acd87dd2500ec49d~mv2.webp)
帰り道は遠回りしたくなる [第1話/全4話]
【第1話】 チャイと名刺 この街は、音が多い。 ムンバイに来るたびにそう思う。 クラクション、売り声、寺院の鐘、工事の音——それが重なって、塊になっている。 騒音ではなくて、街の体温に近い。 タタ・モーターズのムンバイ本社で商談が終わったのは、午後3時を少し過ぎたころだった。 打ち合わせは2時間かかった。 テーマはEVシフトに伴うサプライヤーの再編だ。 先方のCPOが最初に言ったのは「日本のサプライヤーはEV移行が遅い。 正直、今のパートナーシップを見直す時期に来ている」という一言だった。 俺は資料を一枚めくった。 「おっしゃる通りです」 同意から入った。否定より速い。 「ただ、移行が遅いということは、まだ決まっていないということでもある。今この段階で入ることが、5年後に意味を持つ」 次のページに数字を並べた。 EV部品の調達コスト削減率、日本の主要サプライヤーとの既存ネットワーク、納期の達成率。 隣に座るCFOが眼鏡を少し持ち上げた。CPOが10秒ほど黙った。 「もう一度話しましょう」 それで十分だった。今日の仕事は終わった。 BKCから配車を

GENPASS 編集 三好
6月19日


KitKatClub ドイツ
ベルリンという街を歩いていると、人間はなぜか賢そうな顔になる。 歴史、芸術、自由。 そんな単語を知った顔で石畳を歩ける。 まるで俺自身がヨーロッパ文化の一部になったかのような気分だ。 だが、それは全部ウソである。 俺の中身は、異国の有名クラブを見てみたいという好奇心を、 「文化体験」という包装紙で必死に包んでいるだけの男だ。 目的地はKitKatClub。 名前だけ聞けばチョコレート菓子の新商品みたいだが、 実際はベルリンでも特に有名なクラブである。 自由の象徴。 個性の解放。 自己表現の楽園。 観光サイトにはそう書いてある。 俺の脳内では、「有名だから見てみたい」という小学生レベルの動機しか存在していない。 そんな小学生レベルの精神のまま店の近くに着く。 まず思った。 並んでいる人たちが強い。 いや、腕力ではない。 存在感が強い。 服装も表情も立ち姿も、全員が「私は私である」という圧を放っている。 勝てる気がしない。 入場待ちの列に並びながら、俺は修学旅行初日の中学生みたいになっていた。 周囲は自然体。 緊張しているのは

GENPASS 匿名協力記者
6月18日
bottom of page
