KitKatClub ドイツ
- GENPASS 匿名協力記者

- 6月18日
- 読了時間: 7分

ベルリンという街を歩いていると、人間はなぜか賢そうな顔になる。
歴史、芸術、自由。
そんな単語を知った顔で石畳を歩ける。
まるで俺自身がヨーロッパ文化の一部になったかのような気分だ。
だが、それは全部ウソである。
俺の中身は、異国の有名クラブを見てみたいという好奇心を、
「文化体験」という包装紙で必死に包んでいるだけの男だ。
目的地はKitKatClub。
名前だけ聞けばチョコレート菓子の新商品みたいだが、
実際はベルリンでも特に有名なクラブである。
自由の象徴。
個性の解放。
自己表現の楽園。
観光サイトにはそう書いてある。
俺の脳内では、「有名だから見てみたい」という小学生レベルの動機しか存在していない。
そんな小学生レベルの精神のまま店の近くに着く。
まず思った。
並んでいる人たちが強い。
いや、腕力ではない。
存在感が強い。
服装も表情も立ち姿も、全員が「私は私である」という圧を放っている。
勝てる気がしない。
入場待ちの列に並びながら、俺は修学旅行初日の中学生みたいになっていた。
周囲は自然体。
緊張しているのは俺だけ。
なぜだ。
何も悪いことはしていない。
なのに職員室へ呼ばれた生徒みたいな気持ちになる。
自由な場所へ行くほど、人間は自分の不自由さを自覚するのである。
そんなこんなで御託を並べてみたものの、実際はKitKatClubに来るまでどんな感じだったのか、俺自身ここへ来た理由をうまく説明できない。
ベルリンの夜。有名なクラブ。
世界中から人が集まる場所。
そんな説明を聞いて、好奇心が勝っただけである。

だが、店に入った時にまず思ったのは、思ったより普通ということだ。
まるで既にこのクラブに何回も来たことがあるかのようなシナジーを全身で感じるレベルだ。
もちろん音楽は大きいし、照明も派手だ。
だが俺の頭の中にあった「ベルリン最終決戦会場」みたいなイメージとは違う。
普通に人が笑っている。
普通に酒を飲んでいる。
普通に会話している。
店内は大音量のテクノが響いていて下着姿で踊っている人もいた。
あまりにテクノが脳内に吸い込まれるように流れてくるから、俺の頭がテクノブレイク寸前だっただけかもしれない。
俺はカウンターでドリンクを受け取り、とりあえず落ち着こうとした。
すると隣にいた女性が話しかけてきた。
「日本人?」
聞き取れた。
海外旅行者が最も調子に乗る瞬間である。
俺は笑顔になった。
「そう、日本から来た」
すると彼女も笑った。
「やっぱり」
なぜ分かったのだろう。
顔か。雰囲気か。
それとも、入店してから五分間ずっと周囲を観察していたからか。
たぶん最後である。
彼女はベルリン在住らしかった。
「初めて来たの?」
「初めて」
「どう?」
どう?と言われてスパッと答えられる人はさぞかし陽キャなのかもしれない。
少し迷って、
「思ったより普通」
彼女は吹き出した。
めちゃくちゃ笑った。
そんなに面白かっただろうか。
すると彼女は言った。
「みんな最初そう言う」
みんな言うのか。
世界中から集まった観光客が、同じ感想を抱いているのか。
人類の感想、意外と統一されている。
しばらく話していると、彼女が言った。
「日本好きなんだ」
来た。
海外で発生する定番イベントである。
俺は聞いた。
「何が好きなの?」
おそらくこの子のターゲットは俺かもしれないとうぬぼれつつ聞いた。
すると彼女は「アニメ」と即答した。
やはり。
もはや国際交流の共通通貨である。
さらに彼女は言った。
「日本語も少し勉強した」
嫌な予感がした。
経験上、この手の会話は事故る。
彼女は自信満々に言った。
「諦めたら終わり」
始まった。
少年漫画である。
「仲間は宝物」
さらに続く。
「夢は逃げない」
完全に主人公である。
俺の脳内では、ジャンプ編集部が拍手していた。
俺は聞いた。
「それ、どこで覚えたの?」
すると彼女は得意げに言った。
「アニメ!」
知ってる。
今の流れでそれ以外あるか。
もし市役所の日本語講座で
「夢は逃げない」を最初に習っていたら教材がおかしい。
彼女は楽しそうだった。
俺も楽しかった。
なぜだろう。
英語は完璧ではない。
会話もたまに止まる。
それなのに不思議と盛り上がる。
すると彼女が聞いた。
「日本人って、みんな真面目?」
俺は少し考えた。
「たぶん真面目」
彼女はうなずいた。
「やっぱり」
「なんで?」
すると彼女は笑った。
「だってあなた、入ってからずっと周り見てる」
完全にバレていた。
俺は文化体験をしているつもりだった。
だが外から見れば、挙動不審な観光客だったらしい。
悲しい。
だが否定できない。
彼女はドリンクを飲みながら言った。
「もっと楽しめばいいのに」
その言葉に、俺は少しだけ考えた。
確かにそうだった。
俺は店内を分析している。
雰囲気を観察している。
感想をまとめている。
まるで自由研究である。
小学生か。
実際のところ、目の前の女性が魅力的で
面と向かって話すのが恥ずかしいから、周りを分析するフリをしてただけかもしれない。
すると彼女は奥のフロアを指差した。
「イベント始まるよ」
周囲を見ると、確かに人の流れができていた。
みんな楽しそうだ。
俺だけが感想文を書こうとしている。
彼女は笑った。
彼女が俺の手を握る。
「一緒に行こう?」
俺はうなずいた。
断る理由がない。
というか、ここまで来て断ったら何のためにベルリンまで来たのか分からない。
彼女に連れられ、俺は奥のフロアへ向かった。
そして最初に思った。
広い。思った以上に広い。
もはやクラブというより迷路だった。
曲がる。また曲がる。階段がある。
さらに別のフロアがある
。
俺の中のGoogleマップが完全に沈黙した。
もし今ここで彼女とはぐれたら、たぶん翌朝まで出られない。
このまま彼女との袋小路に追い込まれて何かされるのかとも思った。
いや、その何かをしに来たんだけども。
ふと彼女は笑った。
「迷った?」
「少し」
いや、少しではない。
かなりである。
海外で方向感覚を失うと、人間は急に野生動物みたいになる。
俺は今、サバンナで群れとはぐれたシマウマと同じ精神状態だった。
さらに奥へ進む。すると音楽が変わる。
さっきまで聞こえていた音とは違う。
重い。とにかく重い。腹に響く。
耳で聞くというより、内臓で受け止める音楽である。
彼女も周囲も平然としている。
俺だけが洗濯機の中に放り込まれた気分だった。
彼女が聞いた。
「どう?」
俺は正直に答えた。
「思ったよりクラブだ」
彼女は吹き出した。
「それ変な感想」
そうかもしれない。
だが本当にそうなのだ。
俺はもっと特殊な場所を想像していた。
ところが実際は音楽があって、人が笑っていて、みんな好きなように過ごしている。
普通のクラブなのだ。
ただし、普通の基準がベルリンなだけである。
それが一番厄介だった。
しばらく歩いていると、彼女が立ち止まった。
「ここ好き」
そう言って周囲を見渡す。
俺も同じ方向を見る。
誰も他人を気にしていない。
これが一番衝撃だった。
日本だと、少し変わった服を着るだけで目立つ。
SNSに何か投稿すれば反応が気になる。
だがここでは違う。
誰も見ていない。
みんな自分の夜で忙しい。
彼女は笑った。
「だから好き」
その一言で、俺は少しだけ理解した気がした。
有名なのは派手だからではない。
自由だからなのだ。
その自由を楽しむために、みんなここへ来る。
気付けば、入店した時の緊張は消えていた。
彼女が言う。
「ほら、最初より楽しそう」
たぶんその通りだった。
少なくとも、入店直後の俺よりはずっと。
「今夜は忘れられないね」
この言葉に、俺は心臓の高鳴りを感じると共に、ターゲットにされたような気持ちになった。
ここまでは導入だ。
本当に面白い夜は、どうやらこれから始まるらしい。
そこからの彼女の勢いは、それはもう凄いものだった。
こちらも経験がないわけではないが、終始彼女のペースに飲まれっぱなしだった。
周囲が何も気にしていないとはいえ、あれよあれよと服を脱がされてからというものの。
そこからは流れるようなプレイだった。
さすが手慣れていると感じるが、場の雰囲気も相まってこちらも流れるように受け入れられた。
なんとかこちらも主導権を握ろうとするが、彼女はそれも計算済みである。
ベルリンの女性は、かくも男を手玉に取るのが得意なのか。
いろんな意味で忘れられないサービスだった。
案の定、彼女は寸分狂わずすべてが魅力的で、
時間も忘れて何回もフィニッシュしてしまった。
こんなにハッスルしたのは初めてかもしれない。
「また来て」
ドイツのベルリン。
また来ることがあれば…いや、この感覚を味わったら来ない選択肢はないだろう。
翌日、ハッスルしすぎて腰を少し痛めたのは、また別の話である。

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