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![なんとなく、台北行きにした [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_dd4e32f1933843d085fd9bbf12ee43a0~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_dd4e32f1933843d085fd9bbf12ee43a0~mv2.webp)
![なんとなく、台北行きにした [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_dd4e32f1933843d085fd9bbf12ee43a0~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_dd4e32f1933843d085fd9bbf12ee43a0~mv2.webp)
なんとなく、台北行きにした [第2話]
【第2話】ほくろの位置 声をかけたのは、食後のドリンクを取りに立ったときだった。 作戦でも何でもない。彼女の隣のドリンクバーに手を伸ばしたとき、目が合っただけだ。向こうも同じタイミングで立っていた。 「日本の方ですか」 俺が先に言った。 「・・・あ、はい」 少し驚いた顔をした。でも、嫌そうではなかった。それだけで十分だった。 「一人ですか」 「そうです。旅行で」 「高雄、何日目ですか」 「今日で3日目です。明日移動で」 テンポよく返ってくる。壁を作っている感じがない。俺は自分の席に戻りながら、「美味しいですよね、ここ」と言った。 「めちゃくちゃ美味しいです」 彼女が言った。 声に屈託がなかった。「めちゃくちゃ」という言葉が、童顔の見た目と妙に合っていた。俺は自分の席に戻って、コーヒーを一口飲んだ。 次の手を考えた。 同じ店に一人でいる、という共通点がある。これは使える。「一人飯の連帯感」みたいなものを、女は意外と持っている。特に海外での一人行動に慣れている女は、同じ状況の人間に対して開きやすい。 俺は席を立って、彼女のテーブルに近づいた。 「隣、

GENPASS 編集 三好
5 時間前
![なんとなく、台北行きにした [第1話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_52e6bf98f7db45859758518a3f93980e~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_52e6bf98f7db45859758518a3f93980e~mv2.webp)
![なんとなく、台北行きにした [第1話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_52e6bf98f7db45859758518a3f93980e~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_52e6bf98f7db45859758518a3f93980e~mv2.webp)
なんとなく、台北行きにした [第1話]
【第1話】商談前夜の高雄 台湾南部に来るのは、これで4回目だった。 高雄は台北とは空気が違う。台北が東京なら、高雄は大阪に近い。人の距離が近くて、夜が長い。出張で来るたびに、この街が少し好きになっていく。 明日は午前10時から商談が入っている。相手は現地の自動車部品メーカー。3ヶ月越しの交渉がようやく佳境に入ってきた。今夜は早めに切り上げて、明日に備えるつもりだった。 つもりだった、というのが正確な表現だ。 ホテルで着替えてから、一人でディナーに出た。山田がいれば適当な店に連れていくのだが、今回は一人だ。せっかくなら、と思って調べておいた店に向かった。「小時厚牛排」。高雄・台南・屏東にしか存在しない、ローカルのステーキチェーンだ。 店に入ると、広い。思ったより広かった。 清潔感があって、エアコンが効いている。8月の高雄の夜は夜でも30度を超える。その熱気を完全に遮断した店内で、熱々の鉄板ステーキを食べる。この対比だけで、すでにこの店に来た意味がある。 チキンステーキを頼んだ。 300元。日本円で1500円ほど。この金額で、メインのステーキにライス

GENPASS 編集 三好
1 日前
![たぶん、そういうことだと思っている [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_8e289665467143bdb8ad3f7c0e08712c~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_8e289665467143bdb8ad3f7c0e08712c~mv2.webp)
![たぶん、そういうことだと思っている [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_8e289665467143bdb8ad3f7c0e08712c~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_8e289665467143bdb8ad3f7c0e08712c~mv2.webp)
たぶん、そういうことだと思っている [最終話]
【第4話】4回目は来なかった ホテルの部屋を出る前に、アオイが言った。 「Mさんって、こういうこと慣れてますよね」 俺は少し笑って、「そうでもない」と答えた。 「絶対嘘だ」 彼女も笑った。えくぼが出た。 「楽しかった」 アオイがドアノブに手をかけながら言った。過去形だった。 その過去形が、少し刺さった。現在進行形じゃない。もう終わったこととして、きちんと括っている。23か24の女が、そういう括り方をする。俺より大人かもしれないと思った瞬間だった。 「俺も」 それだけ返した。 ドアが閉まった。 部屋に一人残って、俺はまた天井を見た。シーツにまだアオイの匂いが残っていた。さっきまでいた人間の気配というのは、消えるのに少し時間がかかる。 シャワーを浴びて、スーツに着替えた。コーヒーを頼んで、資料を開いた。11時からの打ち合わせに向けて、頭を切り替えた。 切り替えられた。 これが出張の現実だ。仕事で来ている。仕事に戻る。それだけのことだ。感傷を引きずるほど、俺は若くない。そう思いながら、シーツを一度だけ見た。 それだけだ。 帰国してから、アオイとは3回会

GENPASS 編集 三好
5 日前
![たぶん、そういうことだと思っている [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_02ec6b553f9c4fc783495b3deafd58e5~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_02ec6b553f9c4fc783495b3deafd58e5~mv2.webp)
![たぶん、そういうことだと思っている [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_02ec6b553f9c4fc783495b3deafd58e5~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_02ec6b553f9c4fc783495b3deafd58e5~mv2.webp)
たぶん、そういうことだと思っている [第3話]
【第3話】知らない場所の夜 ホテルの部屋に入ると、アオイは窓の外を見た。 夜景が広がっていた。川と、橋と、向こう岸のネオン。悪くない景色だった。俺はミニバーから水を二本取り出して、一本をアオイに渡した。 「ありがとう」 小さな声だった。 アオイはまだ窓の外を見ていた。俺は少し離れた位置に立って、同じ景色を眺めた。隣に立つでもなく、後ろに立つでもなく。この距離感が大事だ。詰めすぎると女は身構える。離れすぎると流れが冷める。 「景色、好きですか」 「うん。こういうの好き」 「どういうの」 「知らない場所の夜、みたいな」 それは少し詩的な言い方だと思った。村上春樹を読んでいた女の言葉らしい、とも思った。俺はアオイの横顔を見た。窓の明かりが横から当たって、鎖骨のあたりに小さな影ができていた。首筋が白い。 俺はゆっくりと隣に立った。 アオイは動かなかった。逃げなかった、ということだ。俺たちはしばらく、同じ夜景を黙って見ていた。肩が触れるか触れないかの距離にある。 「緊張してる?」 「・・・してない」 「嘘だ」 「・・・してる」 正直に言えた。それで十分だっ

GENPASS 編集 三好
6 日前
![たぶん、そういうことだと思っている [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_78475c21d8624ad984c401cb56cad26b~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_78475c21d8624ad984c401cb56cad26b~mv2.webp)
![たぶん、そういうことだと思っている [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_78475c21d8624ad984c401cb56cad26b~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_78475c21d8624ad984c401cb56cad26b~mv2.webp)
たぶん、そういうことだと思っている [第2話]
【第2話】現地、夜の前 現地に着いたのは午後3時過ぎだった。 空港を出た瞬間、熱気と排気ガスと、どこか甘ったるい屋台の匂いが混ざった空気が顔に当たった。この感覚は何年経っても慣れない。悪くはない。むしろ、これを嗅ぐたびに「来た」という気分になる。 アオイとは空港で別れた。 「じゃあ、夜に」 それだけ言って、俺は迎えの車に乗った。アオイはタクシー乗り場の方へ歩いていった。セミロングの黒髪が人混みの中に消えるのを、バックミラー越しに一瞬だけ見た。 仕事が入っている。当然だ。これは出張だ。 ホテルにチェックインして、シャワーを浴びて、スーツに着替えた。取引先との打ち合わせは4時から2時間。その後、軽く会食が入っている。終わるのは9時過ぎになる見込みだった。 アオイに連絡を入れた。 「9時半に終わる。遅くなるけど大丈夫ですか」 既読がついた。返信まで8分かかった。 「大丈夫です」 その3文字を見て、俺は少し笑った。 打ち合わせに入ると、頭は完全に仕事に切り替わった。これは意識してそうしているわけじゃない。長年の出張で、脳がそういう構造になっているんだと思

GENPASS 編集 三好
3月28日
![たぶん、そういうことだと思っている [第1話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_f9ddc208a2b84358bf01b719dd6a42dc~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_f9ddc208a2b84358bf01b719dd6a42dc~mv2.webp)
![たぶん、そういうことだと思っている [第1話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_f9ddc208a2b84358bf01b719dd6a42dc~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_f9ddc208a2b84358bf01b719dd6a42dc~mv2.webp)
たぶん、そういうことだと思っている [第1話]
【第1話】隣の気配 搭乗してシートに腰を落とした瞬間、気配がした。 通路側に座った俺の左、窓際に女が滑り込んできた。 セミロングの黒髪。白いブラウス。158センチ前後、体重は40台後半といったところか。 顔は整っている。化粧は薄め。いわゆる「作った美人」じゃない。素のまま可愛い、という種類の女だった。 年齢は23か24。せいぜい25。 俺は視線を戻してスマホの資料に目を落とした。動かない。これが鉄則だ。 出張は慣れている。4大商社の自動車部門に入って15年近く、アジア・欧州を行き来し続けてきた。たいていは部下の山田を連れていく。奴がいると雑務を任せられて楽なのだが、今回は別件で飛ばせた。久しぶりの一人出張だった。 一人の出張は嫌いじゃない。誰の目も気にしなくていい。空港のラウンジでコーヒーを一杯飲んで、資料を眺めて、搭乗する。それだけの時間が、妙に好きだった。日常の重力から少しだけ解き放たれる感覚がある。 機内が動き始めた頃、隣の女がシートベルトの金具を探してもたついていた。 俺は何も言わなかった。 手伝うのは簡単だ。でも簡単すぎる動きは、薄い。

GENPASS 編集 三好
3月27日
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