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空港まで、三十分 [第3話]

  • 執筆者の写真: GENPASS 編集 三好
    GENPASS 編集 三好
  • 3 日前
  • 読了時間: 4分

更新日:2 日前




【第3話】 52階と、彼女の部屋


Ce La ViはAddress Sky Viewの52階にある。

ドバイには高いところにバーがある、と知っていても、ここは別格だ。

エレベーターを降りた瞬間、ブルジュ・ハリファが正面にある。

夜に光る世界一の高さのビルが、目の前に立っている。

観光地という言い方は正確じゃない。

ここは、ドバイの夜を正面から受け取る場所だ。


カクテルを頼んだ。

ローズウォーターとサフランを使ったシグネチャーカクテル。AED88。

一口飲むと、花の香りが鼻を抜けて、後からほのかな苦みが来る。

中東の香辛料と西洋のカクテル技術が混ざった味は、ここでしか作れない。

ドバイという都市そのものが、この一杯に入っている気がした。


しばらく二人で、ブルジュ・ハリファを見ていた。

「きれいですね」とリカが言った。

「毎日見てる?」

「毎日じゃないけど、飽きない。」

「東京に戻りたいと思う?」

「・・・たまに。」

「どんなとき。」

「誰かと話したいのに、話せない日。」

そう言ってから、「なんか変なこと言いましたね」とリカが笑った。

笑い方がおかしかった。

照れているのか、本当のことを言ってしまったことに気づいたのか。

どちらかは分からなかった。


2杯目を飲み終えた頃、リカが言った。

「うちに来る?」

「行きます」と俺は言った。

リカのアパートはダウンタウン・ドバイにある。

DIFCまで車で10分ほどの場所だ。

35階の部屋からは、街の灯りが見えた。

インテリアはシンプルだった。

必要なものだけが揃っていて、余分なものがない。

2年間ここで暮らしてきた人間の部屋は、こういう静けさを持つ。

本棚に日本語の文庫本が何冊か並んでいた。ウイスキーを出してもらった。


「いつまでドバイにいるつもりなの」と俺は聞いた。

「分からない。会社が決める。」

「自分では。」

「・・・もう少しいてもいいかなとは思ってる。ただ、それだけ。」

「帰ったら何をしたい。」

「温泉。」

即答だった。思わず笑った。リカも笑った。

砂漠の国に2年いる女が一番最初に言う言葉が温泉だった。

それだけで、この女が何者かが少し分かった気がした。


グラスを置いた。

リカの体は、仕事の場での印象より、ずっと細かった。165センチ。

ドレスを脱ぐと、肩甲骨が浮いて、鎖骨が深く刻まれていた。

腰は細く、触れると骨の輪郭が分かった。

それなのに、腿の内側と腹部には、ほんの少しだけ柔らかさがあった。

バランスが均整で、女の体だという感覚が先に来た。

肌は白く、しっとりとしていた。

砂漠の乾燥した空気の中にいながら、その感触だけが水分を持っていた。


最初は静かだった。

自分から動いてきたのに、いざとなると少し遠慮が出るのか、あるいはこれが彼女のペースなのか。

どちらでも構わなかった。

急かなかった。急がせなかった。

リカがどういうペースを持っているのかを、最初の数分で確認した。

そこから先は、そのペースに合わせた。

急ぐ理由が何もなかったから。


声が出始めたのは、しばらく経ってからだ。

低く、短い声だった。

抑えようとしている声だ、と俺は思った。

誰かに聞かれる心配のない部屋なのに、それでも抑えていた。

2年間の一人暮らしの癖が体に入っている。

その感じが、何かを物語っていた。


夜が深くなるにつれて、リカの力が抜けていった。

最初の遠慮が溶けて、こちらの動きに体が反応するようになった。

目を閉じずに、こちらを見ていた。

逸らさなかった。

抑えていた声が少しずつ大きくなった。

それを本人も気づいているようで、一度だけ口を閉じようとした。

閉じなくていい、と俺は思った。

2年間、この部屋で一人だった夜のことを、少しだけ想像した。


深夜を過ぎたあたりで、リカが「疲れた」と言った。

言い方が柔らかかった。

疲れた、ではなく、もう十分だ、という意味に近かった。

俺もそう思っていた。

その後、二人ともしばらく動かなかった。

ベッドの端で、ドバイの夜景が窓の向こうに見えていた。

街はまだ光っていた。


リカが俺の肩に額を当てた。

そのまま動かなかった。

気づいたら、外が白んでいた。

ドバイの夜明けは早い。

朝の光が窓から少しずつ入ってきて、部屋の輪郭が浮かんだ。

リカが寝ていた。

俺も少し眠ったのかもしれない。

どちらが先に起きたかは覚えていない。





Ce La Vi Dubai(セラヴィ・ドバイ)/基本情報

住所: Address Sky View, 52F, Downtown Dubai

おすすめ: シグネチャーカクテル(AED88〜)、サンセットカクテルセット

特徴: Address Sky View ホテルの52階に位置するルーフトップバー。

ブルジュ・ハリファを正面に望む夜景は圧倒的。

ローズウォーターとサフランを使った中東風カクテルが評判。

スマートカジュアル必須。



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