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年に4回、彼女はソウルを選ぶ [第3話]

  • 執筆者の写真: GENPASS 編集 三好
    GENPASS 編集 三好
  • 4月19日
  • 読了時間: 5分



第3話「장프리고の後」


장프리고(ジャンプリゴ)は、홍대(弘大)の路地を入ったところにある。

フランス語でfrigoは「冷蔵庫」を意味する。

その名の通り、コールドサーブにこだわったカクテルバーだ。

カウンターに8席。グラスが常に冷えていて、提供されるとき結露が出ない。

素材の温度管理を丁寧に行う、その仕事ぶりが空気に出ていた。

店内の光の入れ方が抑えめで、カウンターの上だけが明るかった。バーテンダーが二人、ほとんど話さずに動いていた。


俺はネグローニを頼んだ。18,000ウォン。

カンパリの苦みが、食後の胃に馴染んだ。鶏の出汁の余韻に、ジンの香りが重なった。

悪くない組み合わせだった。

カナは서울의 밤(ソウルの夜)というシグネチャーカクテルを選んだ。

韓国の焼酎ベースに、清酒と유자(ゆず)を合わせたもの。17,000ウォン。

透明に近い液体が、グラスの中で静かに輝いていた。一口飲んで、柔らかい顔をした。何も言わなかった。それでよかった。


「ネイル、自分でもするんですか」

カナが手を差し出した。

整った爪だった。

細い指の先に、ごく薄いベージュが乗っていた。主張しない色だが、形が完璧だった。

甘皮の処理が丁寧で、爪の面が均一に光っていた。


「今日仕入れたやつを、さっそく試してます」

「すぐ試すんですか」

「まずは自分でやってみないと。持ちがどうかとか、色の出方とか、お客さんに出す前に確認したくて。あと、お客さんが気になって聞いてくれることもあるし」

「宣伝にもなる」

「そうです。『そのネイルどこの?』って聞いてもらえると話が早くて」

美容整形外科医が施術を自分の体で試してから患者に使うのと、同じ論理だ。

仕事への姿勢が、指先に出ていた。

「でも最近は、派手なのよりこういう方が好きになってきて」


28歳になって、何かが落ち着く方向に動いている。

服装も、爪の色も、旅の仕方も。

全部同じ方向を向いていた。

最先端のトレンドを仕入れに来ているくせに、自分が選ぶ色はベージュだった。


会話が少なくなっていった。

カウンターで並んで、グラスを持って、黙っている時間ができた。

その沈黙が、タッカンマリを食べていたときの会話より近いところにあった。

距離が、言葉より先に縮まっていた。これ以上何かを話す必要はなかった。


「ホテル、光化門なんですけど」と俺が言った。

「遠いですか」

「タクシーで15分くらい」

カナはグラスを一口飲んだ。少し間があった。

「もう一杯だけ飲んでから」


2杯目を飲んで、タクシーで광화문(光化門)に向かった。

後部座席に並んで、窓の外のソウルが流れていった。

仁寺洞の路地、光化門の交差点、景福宮の塀。

会話はなかった。ソウルの夜が、二人の間を流れていた。

それで十分だった。弘大から光化門まで15分ほどだった。

その15分の間、カナは窓の外をほとんど見ていた。

見慣れた景色を確認するように、少しずつ目で追っていた。


Four Seasons Hotel Seoul。17階の部屋に入ると、窓の向こうに景福宮の夜景が広がった。

ソウルの夜は東京より暗い。闇の中に、宮殿の屋根だけがライトアップされて浮いていた。昼に見る景福宮とは、まるで別の建物に見える。


「きれいですね」とカナが言った。

景色に向かって言ったのか、俺に言ったのかわからなかった。

冷蔵庫からスパークリングウォーターを出した。

渡したとき、指先が触れた。カナは視線を逸らさなかった。

気づいたら、午前1時を過ぎていた。


カナの体は、想像していたよりも整っていた。

164センチ、50キロあるかないか。

ジャケットの下は、思っていたより柔らかかった。

肩から腕にかけての線が細く、腰のくびれとのコントラストがはっきりしていた。

28歳の体は、力が抜けたところと張っているところが同時にある。

細いのに、どこかに芯があった。朝の瑞源で隣に座っていたときとは、まるで別の女だった。


ベージュの爪が、暗い部屋の中でも消えなかった。薄い色なのに、確かにそこにあった。

彼女は静かだった。

感情を外に出すことに慣れていない女だった。

でも、こらえていたわけではなかった。

ただ、静かに受け取っていた。

ほぐれるたびに、朝の瑞源では見えなかった顔が出てきた。

深夜、カナがそっと言った。


「次の仕入れで、また来ます」

「ソウルに?」

「ソウルに」

俺はそれを聞いて、何も言わなかった。

翌朝、カナは早かった。6時半には起きていた。

「仕入れ先のアポ、8時から」

「頑張ってください」


ジャケットを羽織って、コスメのロゴが入った紙袋を持ち直した。

昨日の朝、瑞源に来たときと同じ荷物だった。

この女は、ソウルに来るたびに同じ荷物で、同じルートを回っている。

変わらない場所を選んで、変わらない仕入れ先を回って、変わらないソウルで何かを確認する。

それがカナの4回の意味だった。


ドアが閉まった。

廊下の足音が、少しずつ遠ざかった。

俺はシャワーを浴びて、スーツを着た。

洗面台の鏡に映る自分の顔は、いつもと変わらなかった。

ソウルで何が起きても、朝の顔は変わらない。それでいいと思っている。

景福宮の屋根が、朝の光の中に浮いていた。



[最終話] 「年に4回、彼女はソウルを選ぶ」 に続く。



■ 장프리고(ジャンプリゴ)

住所:서울특별시 마포구 서교동(ソウル特別市 麻浦区 西橋洞)홍대 路地エリア

営業時間:18:00〜翌2:00頃

予算目安:カクテル1杯 15,000〜20,000ウォン

特徴:コールドサーブにこだわったカクテルバー。グラスを常に冷やして提供。シグネチャーカクテル「서울의 밤(ソウルの夜)」は焼酎×清酒×ゆずのシンプルな構成。カウンター8席のみ、会話より空気感を楽しむ大人向けの店。



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