top of page

沈む前に、飲もう [第3話]

  • 執筆者の写真: GENPASS 編集 三好
    GENPASS 編集 三好
  • 5月10日
  • 読了時間: 4分

更新日:5月11日




【第3話】 岩の上で、夕陽を見た


翌日の午後5時に、ホテルのロビーで落ち合った。

The Rock Barは、ジンバランのAYANAリゾートの崖の下にある。

インド洋を14メートル見下ろす玄武岩の上に作られたバーだ。

リゾートから傾斜のついたインクラインリフトで降りる。

崖を滑り降りるように動く狭い箱の中に、二人で乗り込んだ。

サキの肩が俺の腕に触れた。

彼女は少し前のめりになって、外の景色を見ていた。

下に、海が見え始めた。


「すごい」と彼女は言った。声が小さかった。

驚くのが正しい景色というものがある。

俺も初めて来たとき、そう思った。

なるほど、岩の上だ、と。

席についた。カクテルを頼んだ。

マンゴーとパッションフルーツのトロピカルカクテル。Rp185,000。

南国の甘さが口の中でほどける。氷が多く、飲み口がいい。

夕陽が沈みかける時間帯、オレンジ色の光がインド洋の水面を染めていく。

空の色が刻々と変わる。

岩の上にいると、自分が地面の続きにいる気がしない。

海の上に浮かんでいるような感覚がある。


「なんでここ知ってたんですか」とサキは言った。

「前に来たことがある。いい場所はメモしておく。」

「それだけのために、また来るんですか。バリに。」

「今回は仕事だ。でも仕事だけのために来る場所じゃないとも思ってる。」

サキは黙って海を見た。

水平線に向かって、太陽が落ちていた。

「沈む前に、飲もう」と俺は言った。それだけだ。

グラスを持った。彼女もグラスを持った。

乾杯はしなかった。ただ、二人で同じタイミングで飲んだ。


太陽が沈んだ。

しばらく、どちらも話さなかった。話す必要がなかった。

インド洋の向こうに光が消えていく時間は、言葉より静けさの方が正しい。

俺はそれを知っている。

サキも、黙っていることを選んだ。いい女は、沈黙を恐れない。


太陽が完全に落ちると、空が紺色になっていった。

岩の上に、風が吹いた。サキが少し体を縮めた。

寒くはないはずだが、夜の海風には、昼間と違う冷たさがある。

俺は何も言わなかった。言わなくていいことが分かっていた。


帰りはAYANAのドライバーが運転する車でスミニャックに向かった。

30分近くかかる。後部座席に二人で乗った。

サキが窓の外を見ていた。俺も窓の外を見ていた。

どこかで手が触れた。どちらも動かさなかった。

動かさないことが、その時点での答えだった。


「もう少し飲むか」と俺は言った。「部屋にいいウイスキーがある。」

サキは窓の外を見たまま、少し間を置いた。

「うん」と彼女は言った。

断る気がないのか、考える気がないのか、それとも決めていたのか。

どれかは分からなかった。

ただ「うん」と言った。それで十分だ。


部屋に入った。

バルコニーから海が見える。

夜のスミニャックは、遠くの音楽と波の音が混ざっている。

ウイスキーを二杯用意した。水も並べた。

サキはグラスを受け取って、バルコニーの手すりに寄りかかった。


「バリ来てよかった」と彼女は言った。

「何が一番よかった」

「今日。」

答えに迷った様子はなかった。

今日、と言ったのはRock Barのことだろうか。

それとも今この瞬間のことだろうか。

どちらとも受け取れる言い方だった。

聞かなかった。聞く必要はなかった。


波の音が続いていた。グラスを置いた。

どちらが先に動いたかは、覚えていない。

サキの体は、細い印象より少しだけ重かった。161センチ。

ワンピースを脱がせると、鎖骨の細さからは想像できない丸みが出てきた。

肩甲骨は薄く浮き出ているのに、腰から腿にかけての曲線が対照的なほど豊かだった。

バリの陽に均一に焼けた肌は、シーツの白に映えた。

薄く褐色で、細かい産毛が逆光に浮いた。


触れると、31歳の体は20代のふわついた柔らかさとは少し違う。芯がある。

力が入っているのではなく、体の密度が違う。

下腹部に手を置いたとき、サキが小さく息をついた。

急がなかった。急ぐ必要がどこにもなかった。


声を上げるとき、顔をこちらに向けた。

目が合った。逸らさなかった。

恥ずかしがらない女だ、と思った。それは正しい判断だった。

こちらもそこから目を逸らさなかった。

視線を合わせたまま動くと、サキが口を半開きにして、低い声を漏らした。


サキは小さく笑った。

何かが可笑しいのではなく、なにかが腑に落ちた顔をした。

俺も同じ気持ちだった。

気づいたら午前1時を過ぎていた。





The Rock Bar(ザ・ロックバー)/基本情報

住所: AYANA Resort and Spa, Jl. Karang Mas Sejahtera, Jimbaran, Bali

おすすめ: トロピカルカクテル各種(Rp185,000〜)

特徴: インド洋を14メートル見下ろす玄武岩の上に建てられたバー。

AYANAリゾートのインクラインリフトでアクセス。

夕陽の時間帯(17時〜19時)が最も美しい。

アジアのベストバーとして度々選出。予約推奨。



コメント


bottom of page