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ブラックキャビア バンコク

  • 執筆者の写真: GENPASS 編集 八田
    GENPASS 編集 八田
  • 6月17日
  • 読了時間: 4分



バンコク・ラチャダー方面にある高級MP、Black Caviar Executive Club

日本語だと「ブラックキャビア」。

名前からしてもう高い。高級。黒光り。

庶民の冷蔵庫には絶対に入っていない単語である。


マッサージパーラー、通称MP。

バンコク夜遊び界における、ちょっと大きめで、ちょっと高級で、ちょっと人生の判断力を試してくる大人の施設だ。



場所



ブラックキャビアは高級店。料金もクラス別。

G、H、I、J、K、S、M、L、XL……VIPみたいに。



俺はそれを見た瞬間、思った。

これは料金表ではない。

人間の煩悩に対する昇進試験である。


俺は店に入る前から、すでに少し背筋を伸ばしていた。

高級店に行く男は、歩き方も高級でなければならない。

声も少し低くする。

スマホを見る角度も、なんとなく成功者っぽくする。


中に入ると、やっぱり空気が違う。

ロビーが広い。スタッフの動きも、どこか余裕がある。

夜の男たちを受け止めるために作られた、謎の高級施設という感じだ。





ひな壇に座っている女の子たちは、みんなきれいだった。

きれいな子、スタイルの良い子、余裕のある子。


「どこまで行ける?」

「いや、現実的にはこの辺では?」

「でもせっかく来たんだぞ?」

「せっかく、という言葉で人は破産する」


女の子を選びに来たはずなのに、最初に選ばされるのは女の子ではない。

自分の経済階級である。


ランクが上がるにしたがって価格も上昇する。

俺は焦った。

高級店では焦ったら負けだ。

だから、焦っていない顔をして、女の子を選んだ。


そこから個室へエレベーターで移動する。

しっかり部屋も豪華ですばらしい。

照明、空間、設備。

全部が「今日は普通の店ではありません」と言っている。


俺はここでも余裕ある男を演じていた。

美人の女の子がにこっと笑う。


最高かー!!


そこからの流れは、さすが高級店という感じだった。

大げさに言えば、店全体の“慣れ”がある。

案内、距離感、サービスの入り方。

こちらが変に緊張していても、向こうはそれを当然のように受け止めてくる。

こっちが「俺は余裕です」と演技している横で、女の子は本当に余裕である。


この差がきつい。

非常にきつい。

俺は大人の男として来たはずだった。

だが実際は、高級店の流れに乗せられながら、

ずっと小学生みたいな反応をしている。


「すごい」

「おっきい」

「きれい」

「気持ちいい」

「めっちゃいい」

「イッちゃいそう」


俺は、ホテルの朝食ビュッフェでウインナーを多めに取るタイプの男である。

キャビアより、ツナマヨの方が付き合いは長い。

シャンパンより、コンビニの缶チューハイの方が俺の失敗を知っている。


俺は、ただの俺になっていた…


目をガン開きにして、この光景を脳に焼きつける。

そのあと、敢えて目を閉じて体全身を集中させて

この気持ちよさを細胞レベルで堪能する。

今なら空も飛べると思えるほどの浮遊感を感じでフィニッシュ。


体の全部を出し尽くした瞬間、俺の中の家計簿アプリが勝手に起動した。

「今月の支出が通常より増えています」


黙れ、そんなの分かっとる!


でも、高級店というのは、ただ気持ちよくなるだけでは終わらせてくれない。

最後に必ず、財布と向き合わせてくる。

終わったあと、俺は妙に静かだった。

満足感はめちゃくちゃある。

でも同時に、何かを削られた感じもある。


すると女の子が、気持ちよかった?と聞くと

俺は無駄に余裕のある男の顔でうなずいた。

たぶん外から見れば、落ち着いた客に見えたと思う。

だが内側では、財布と自尊心が緊急会議を開いていた。


脳内、うるさっ!


女の子が心の中まで見透かすような目でこちらを見つめてくる。

やめてくれ。

俺はただバンコクで少し浮かれたいだけの男だ。

そんな穴が開くほど俺を見ないでほしい。


そして、女の子がにこっと笑う。


その瞬間、俺の中の高級感は全部、常温のプリンみたいに崩れ落ちた。

普段から高級な夜を楽しんでますよ、みたいな薄っぺらい演技と

夢の国ような体験から同時に卒業した。




Black Caviar。

名前からして高級である。

最後に気づいた。

俺はキャビアを味わえる男ではなかった。

キャビアの前で、

「これ、白米に乗せたらうまいのかな」

と考えてしまう側の人間だった。


でも、それでいい。

背伸びして、財布を震わせて、余裕のある男のフリをして、

最後に自分の庶民性に気づかされる。


それもまた、バンコクの夜である。


俺は大人の男として行ったつもりだった。

しかし実際は、高級寿司屋でサーモンばかり頼むタイプの男が、

無理してキャビアの前に座っていただけだった。


それでも、満足してしまった。

そしてホテルへ戻る道で、俺は夜空を見上げながら思った。


よし!

明日から働くぞー!!



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