Billboard Bangkok バンコク|ナナプラザで笑って、焦って、最後に色気で負けた夜
- GENPASS 匿名協力記者

- 7月22日
- 読了時間: 6分

ナナプラザ最上階のBillboard Bangkokで、初心者の男がエロと笑いの両方に飲まれた一夜。
胸元、色目、近すぎる距離感に翻弄され、最後に残ったのは色気ではなくガパオのシミだった。
場所:ナナプラザ
ネオン前で、男の余裕は消えた

社会勉強である。
異文化理解である。
男一人旅の現地調査である。
そんな立派な言い訳を胸に、俺はバンコクの夜、ナナプラザの入口に立っていた。
スクンビット通りソイ4。
建物の中にはゴーゴーバーやビアバーが並び、
夜になるとネオン、低音、香水、男の下心が一気に濃くなる。
慣れた顔の欧米人たちは、コンビニに入るような足取りで吸い込まれていく。
その横で、俺は入口の段差につまずいた。
まだ何も始まっていない。なのに、もう負けている。
向かったのは最上階のBillboard Bangkok。
名前だけは知っていたが、初心者の俺にはラスボスの城だ。
階段を上がるたびに心拍数も上がり、ビールを飲む前から顔だけは酔っていた。
扉の奥から低音と笑い声が漏れてくる。
深呼吸して中へ入った時点で、俺の余裕はほぼ売り切れていた。
一杯目のビールと、見えそうで見えない彼女
店内に入った瞬間、目が慣れるより先に心臓が反応した。
ステージでは女性たちが音楽に合わせて体を揺らし、照明の下から、
こちらが勝手に勘違いしたくなる視線を投げてくる。
席に案内され、ビールを頼んだ。
「Beer?」
「Yes」
妙に低い声で答えた。
慣れている男を演じたかったのだ。
実際は、英語の授業で突然指名された中学生くらい緊張していた。
ひと口飲んだところで、黒髪の女性が隣に座った。
大きな目、肩の出た衣装、かなり大胆な胸元。
ちゃんと顔を見ようとするのに、彼女が少し前かがみになるたび視線が落ちる。
見えそうで見えない。
その絶妙な線だけが、こちらの想像力を勝手に走らせる。
俺は泡を眺めるふりをした。
頭の中では、さっきの胸元を高画質で再生していた。
彼女は気づいていた。
目が合った瞬間、口元だけで笑ったからだ。
『見たでしょ?』
と言われているような、逃げ道のない笑い方だった。
Yesの重さを、太ももで知る
「Where are you from?」
「Japan」
「Oh, Japan. Kawaii」
俺が褒められたのか、日本全体が褒められたのか分からない。
だが、とりあえず照れた。
彼女の指先が腕に触れ、膝と膝が当たる。
香水も髪も胸元も近い。
これは営業だ。もちろん営業だ。
ただ、営業にしては近い。いや、近い営業なのだ。
彼女が耳元で何かを言った。
音楽が大きくて聞こえない。
聞き返せばよかったのに、初心者だと思われたくない男は、ときどき人生を間違える。
「Yes」
彼女が笑い、スタッフが来て、グラスが一つ増えた。
レディドリンクである。
英語とは言葉ではない。
バンコクの夜では、請求に変わる魔法である。
乾杯のあと、彼女は俺の太ももに手を置いた。
一瞬で背筋が伸び、歯医者で口を開けている時くらい真面目な顔になった。
「You nervous?」
「No」
嘘である。
心の中では、日本語と英語と謎の祈りが全部混ざっていた。
彼女は全部分かっている目で笑っていた。
完全にからかわれている。
なのに逃げたいとは思わない。
男とは単純だ。
太ももに手を置かれただけで、人生観まで柔らかくなる。
バーファイン前線、財布だけ大人になるな
しばらくして、彼女が声を落とした。
「You go out with me?」
来た。バーファインである。
女性を店外へ連れ出すため、店に料金を支払う仕組みだ。
ここで分かったふりをしてはいけない。
初心者が一番やってはいけないのは、財布だけ大人になることである。
俺は勇気を出した。
「How much?」
今夜初めて、Yes以外の英語で自分を守った。
スタッフから料金と流れを聞き、スマホの電卓で数字を確認する。
雰囲気より先に金額、店を出る前に条件。
夜遊び客というより確定申告前の個人事業主の顔だったが、確認して納得したうえで支払った。
彼女が手を取り、出口へ向かう。
肩が当たり、指が絡み、香水が濃くなる。
俺は急に『ちゃんと大人の遊びをしている』という自信を持った。
そう思った瞬間が、一番危ない。
タクシーの後部座席で、距離感が壊れた
外の空気はぬるく、湿気と排気ガスとネオンの熱が混ざっていた。
彼女に腕を絡められただけで、俺は歩幅が分からなくなった。
タクシーの後部座席は逃げ場がない。
肩と太ももが触れ、彼女がスマホをのぞき込みながら俺の胸にもたれる。
窓の外を赤と紫の光が流れ、そのたび彼女の首筋や鎖骨が浮かんだ。

見ないようにすると、余計に見える。
これは物理ではない。心理の罠だ。
彼女が指を絡めてくる。
握り返していいのか。
強すぎると気持ち悪いのか。
弱すぎると草食なのか。
ちょうどいい握力とは何ニュートンなのか。
そんなことを考えている男に、色気などあるはずがない。
彼女は耳元で「Relax」とささやいた。
その息が首にかかった瞬間、まったくリラックスできなくなった。
ホテルの部屋で、完全に主導権を失う
ホテルに着き、カードキーを一度落とした。
彼女が笑う。今夜、何回笑われたか分からない。
部屋へ入ると急に静かになった。
ネオンも低音もなく、エアコンの音と香水の匂いだけが残る。
彼女はヒールを脱ぎ、ベッドの端からこちらを見上げた。
店の明るい笑顔とは違う。
からかうようで、少し試すような目だった。
俺は水を飲もうとしてキャップまで落とした。
色気のある男は、たぶんこんなに物を落とさない。
彼女の指がシャツの胸元に触れ、顔が近づく。
キスには甘い香りと、少しだけアルコールの味がした。
その瞬間、『取材』や『社会勉強』という言い訳は全部消えた。
薄い照明の中、彼女が少し前にかがむ。
見えそうで見えない距離で止まり、俺の反応を見て笑う。
わざとだ。絶対にわざとだ。
シャワーへ行けば、シャンプーのボトルを倒し、
床で少し滑って壁に手をついた。
外から彼女が笑っている。
官能的な夜のはずが、途中から介護施設の見守りに近くなってきた。
それでも部屋へ戻れば、
濡れた髪と落ちかけたメイクの彼女がいる。
もう一度キスをし、緊張がようやくほどけていく。
映画のように完璧ではなかった。
枕は落ちる。汗はかく。
途中で水も欲しくなる。
「Water, please」
なぜか敬語のような声になった。
彼女は笑いながら水を取ってくれた。
その顔は完全に『この人、思ったより体力ないな』だった。
ジムに行っておけばよかった。
帰り支度を終えた彼女は、ドアの前で振り返った。
「Next time, relax more」
夜遊びで宿題を出された男。
それがこの日の俺だった。
最後に残ったのは、色気ではなくガパオだった
ドアが閉まり、部屋に静けさが戻った。
勝ったのか負けたのかは分からない。
ただ、ナナプラザの夜にだいぶ振り回されたことだけは確かだった。
シャワーを浴び直し、鏡の前に立つ。
そこで、最後の真実に気づいた。
シャツの胸元に、赤いシミがついている。
血ではない。口紅でもない。
昼に食べたガパオの唐辛子ソースである。
俺はあのシミをつけたままBillboard Bangkokに入り、
女性と話し、格好をつけ、バーファインし、ホテルまで来ていたのだ。
思い返せば、彼女は何度か俺の胸元を見て笑っていた。
俺はずっと、自分の色気で笑わせていると思っていた。
違った。
ガパオである。
俺が『胸元を見られている』と勘違いしてドキドキしていた時間、
彼女はたぶん『この人、シャツに赤いのついてる』と思っていた。
この夜、一番俺に寄り添っていたのは、
彼女ではなく、昼飯のソースだった。




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