無邪気な笑顔の裏で俺を操るMINTの一言「また来るでしょ?」最後まで手のひらの上だった俺

更新日:10月7日
バンコク・ニューペッブリー通り。
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Photo: Trsqr / Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0
今回やって来たのは「Nancy Soapy Massage」。
場所
営業時間は12:00〜24:00。
「……俺は昼から何しに来てるんだ?」
自分で来ておいて疑問に思うが、
気になった店なら、とりあえず入ってみる。
そう自分に言い聞かせて店内へ入った。
店に入ると、スタッフに案内されて2階へ。
階段を上がると、女性たちが並んでいる。
フィッシュボウル形式だ。
ゆっくり眺めながら歩いていると、
ひとりの女性と目が合った。
彼女は軽く会釈して、にこっと笑う。
その笑顔が妙に印象に残った。
……こういうのに弱い。
結局、その女性の前で足を止める。
「この子でお願いします」
料金を確認して、1,900バーツを支払う。
すると彼女がこちらへやって来た。
「こんにちは」
「こんにちは」
近くで見ると、やっぱり笑顔がいい。
「日本人? 一人で来たの?」
「そう。一人」
MINTが俺の顔をじっと見る。
「緊張してる?」
「してない」
「してるよ。顔に書いてある」
「そんな便利な顔してる?」
MINTが笑う。
……初対面なのに、なかなか言う。
「MINTって呼んで」
「分かった」
「忘れないでね」
「そんなに忘れそうに見える?」
「ちょっとだけ」
「おい」
また笑った。
まだ数分しか話していない。
なのに、なんとなく分かった。
この子、俺を弄るのが好きだ。
そして困ったことに、俺はこういうタイプに弱い。
個室に入ると、MINTが準備を始めた。
「マッサージ、強いのがいい?」
「普通で」
「本当に? さっき緊張してた人が?」
「もう忘れてくれ」
MINTが笑う。絶対に忘れていない。
ベッドに横になるとマッサージが始まった。
「眠くなった?」
「ちょっと」
「じゃあ寝ていいよ」
「寝に来たわけじゃないから」
「じゃあ、何しに来たの?」
「……マッサージ」
……なんだか、こっちが面接されているような気分になってきた。
しかも面接官はやたら楽しそうだ。
「バンコク、何回目?」
「何回か来てる」
「じゃあ慣れてるね」
「まあ、それなりに」
MINTが笑う。
「今日は何しに来たの?」
「……それは秘密」
「秘密?」
「そう。秘密」
MINTが楽しそうに笑う。
「じゃあ、あとで教えて」
「気が向いたら」
「絶対教えてね」
「なんでそんなに気になるんだよ」
「秘密って言われたら、気になるでしょ」
MINTがまた笑う。
「MINTは普段何してるの?」
「秘密」
「おい」
「さっき私にも秘密って言ったでしょ?」
「そんなところだけ覚えてるのかよ」
「もちろん」
どうやら主導権を取り返すのは無理らしい。
「今日は私の勝ちね」
「まだ勝負してないだろ」
「してるよ」
「いつから?」
「最初から」
その一言に思わず笑ってしまった。
……どうやら俺は、店に入った瞬間から負けていたらしい。
そんなやり取りをしているうちに、時間がどんどん過ぎていった。
時計を見る。
「もうこんな時間?」
「早かった?」
「うん」
「楽しかった?」
「……かなり」
MINTが嬉しそうに笑う。
「最初は緊張してたのにね」
「それ、まだ覚えてるのかよ」
「忘れないよ」
また笑う。
最初に目が合ったときは、
感じのいい子だと思っただけだった。
それが今では、次に何を言われるのかが楽しみになっている。
「ねぇ」
MINTがこちらを見る。
「何?」
「最初に私を選んだ理由、覚えてる?」
「笑ったから」
「それだけ?」
「それが結構大事だろ」
MINTは少しだけ嬉しそうな顔をした。
「じゃあ、選んでよかった?」
「うん」
「本当に?」
「何回確認するんだよ」
「聞きたいから」
……こういうところだ。
気づけば俺は、
店そのものよりMINTとの会話を楽しんでいた。
時間が過ぎるのは早い。
「今日、楽しかった?」
「うん」
「じゃあ、もっと楽しくしてあげようか?」
耳元で囁かれた声はいつもより低く甘い。
意味がわからず見つめ返すと、
MINTはいたずらっぽく「秘密」とだけ言った。
「こっち向いて」
身体を返せば、すぐそこに彼女の顔。
「目、閉じて」
素直に瞼を下ろすと唇に柔らかな感触。
彼女の指先が胸元をゆっくりなぞり下へ降りていく。
焦らすように止まっては
また動きそのたびに俺の息が乱れた。
「遠慮しなくていいよ」
MINTが俺の手を自分の腰へ導いた。
少しだけ真剣な声に促され彼女を引き寄せる。
小さく息を漏らし
俺を受け入れた彼女の瞼が震えていた。
熱く濡れた内側が
俺を包み込みその感覚に思わず息を詰める。
「私ばっかり気持ちよくなってない?」
「お前が気持ちいいならそれでいい」
動きが止まり、彼女がふっと笑う。
「そういうとこ、ずるい」
自ら腰を動かし始め余裕は
すぐに消えて必死にリズムを刻む。
汗で張りついた前髪の下で潤んだ瞳が揺れ
息遣いが速まり切なげな吐息が漏れた。
「もう……」
限界の声に腰を掴み下から突き上げると、
彼女が声を押し殺し深く沈む。
震える体を抱きしめその温もりを感じながら俺も果てた。
「やっと積極的になった」
「うるさい」
反論は彼女の唇で塞がれた。
最後まで楽しむような笑みに、
なぜか嫌な気はしなかった。
身支度を整えて、店を出る準備をする。
「今日はありがとう」
「こちらこそ」
MINTが笑う。
「また来る?」
「まだ分からない」
「来るでしょ?」
「なんでそんな自信あるんだよ」
「だって楽しかったから」
「それはそうだけど」
「じゃあ、来る」
「決めつけるなよ」
MINTは楽しそうに笑った。
「次に来たときも、私を選んでね」
「それも俺が決めることだろ」
「そう?」
……最後まで、この調子だった。
俺は自分でMINTを選んだつもりだった。
でも、店を出てから考えてみると、
最初に目が合ったときから、
ずっとMINTのペースだった気がする。
「また来るでしょ?」
最後にそう言ったMINTの声を思い出す。
……たぶん、次に会ったときも同じように弄られる。
そして俺は、また笑ってしまうんだろう。
最後まで、完全にMINTの手のひらの上だった。

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