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![三番目の風 [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_b3817bc990314b788fb17b480f903098~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_b3817bc990314b788fb17b480f903098~mv2.webp)
![三番目の風 [最終話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_b3817bc990314b788fb17b480f903098~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_b3817bc990314b788fb17b480f903098~mv2.webp)
三番目の風 [最終話]
【最終話】 三番目の風 音がなくなって目が覚めた。 二日ぶりの静けさだった。カーテンが垂れている。 窓を開けると、空気が乾いていた。 昨日まで黄色く濁っていた空から砂が落ちて、 対岸の旧市街の輪郭が、剃刀で切ったように立っている。 海峡には白波がなかった。 石板のような青が横たわって、 その上を白いフェリーが一隻、ゆっくり進んでいた。 船が動いている。荷物も動く。 デニズは机にいた。 ベッドではなく、窓際の書き物机だ。 ホテルの便箋を何枚か広げて、ペンを持っていた。 三好が起きたことに気づいて、顔だけ上げた。 「寝てないのか」 「寝ました。少し」 便箋には、日付と数字と、短いトルコ語が並んでいた。 表のような形をしている。 「数えているのか」 「思い出しています」 彼女はペンを置いた。 「三好さん。私、たぶん全部持っています」 「全部」 「署名した書類の控えです。会社の分とは別に、自分のぶんを取ってあります。名古屋にいたとき、そうしろと教わったので」 「誰に」 「覚えていません。たぶん、工場の人です」 彼女は少し笑った。 「日本の人は、みんな控え

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9月28日
![三番目の風 [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_2b2ac1dc25d04472ae999a44abd6f236~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_2b2ac1dc25d04472ae999a44abd6f236~mv2.webp)
![三番目の風 [第3話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_2b2ac1dc25d04472ae999a44abd6f236~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_2b2ac1dc25d04472ae999a44abd6f236~mv2.webp)
三番目の風 [第3話]
【第3話】 喉を焼く 彼女の言ったとおりになった。 朝、窓を開けた瞬間に音でわかった。 建物の角を削るような、低くて途切れない風の音だ。 カーテンが水平に持ち上がって、部屋の中の紙が一斉に床へ落ちた。 海峡は灰緑色で、白波が端から端まで立っている。 昨日まで数分おきに行き来していたフェリーが、一隻も見えなかった。 7時半に、桟橋まで歩いた。 柵が下りている。 渡し板に鎖が巻かれて、掲示板にトルコ語と英語で欠航が出ていた。 売店のプラスチックの椅子が倒れたまま、誰も直していない。 防水布が一定の間隔で鳴っている。 海の色より先に、空の色が異様だった。 低くて、黄色い。 砂を含んだ風がアフリカから上がってくると、この街の空はこうなるらしい。 船が止まれば、荷物も止まる。 今日は何も進まない。 今夜の約束だけが、昨日のまま残っている。 ホテルに戻ってメールを開いた。 一昨日、東京に投げた質問の返事が来ていた。 荷受人の履歴を全部出してほしい、と書いた件だ。 返信は一行だった。 触るな 三文字。 名前も、挨拶も、理由もない。 三好はその三文字をしばらく

GENPASS 編集 三好
9月27日
![三番目の風 [第2話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_317453c1edbf4164bab4cf7510bb08f1~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_317453c1edbf4164bab4cf7510bb08f1~mv2.webp)
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三番目の風 [第2話]
【第2話】 七枚の表札 朝から風が変わっていた。 南西から重い空気が押してくる。 ロドス、とこの国の人間は呼ぶ風だ。 青が薄い黄色に濁って、遠くのモスクの輪郭が少しぼやけている。 桟橋では、フェリーが着岸のたびに舷側を軋ませていた。 11時に、三好はホテルを出た。 行き先は決めてあった。 昨夜、名刺の裏と船積みの写しで同じだった住所だ。 歩いて七、八分。 坂を下って、海の側へ回り込んだあたり。 19世紀の商館だった。 玄関の石がすり減って、真ん中がくぼんでいる。 エレベーターはない。 四階まで上がった。 扉は一つだった。 木の扉で、上半分が曇りガラスになっている。 その横に、真鍮の表札が縦に七枚並んでいた。 六枚は緑がかって曇っていて、文字の彫りに埃が溜まっている。 何年もそこにある表札の顔だ。 一枚だけが新しかった。 上から三番目。 角が立っていて、磨いたばかりのように光を返している。 ネジの頭にも傷がない。 三好はその一枚を読んだ。 昨夜、船積みの写しで見たのと同じ名前だった。 その二つ下、上から五番目に、デニズの会社のイスタンブール事務所の

GENPASS 編集 三好
9月26日
![三番目の風 [第1話 全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_fbc0f724084a44d3824006469deac8be~mv2.png/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_35,blur_30,enc_avif,quality_auto/37d521_fbc0f724084a44d3824006469deac8be~mv2.webp)
![三番目の風 [第1話 全4話]](https://static.wixstatic.com/media/37d521_fbc0f724084a44d3824006469deac8be~mv2.png/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_95,enc_avif,quality_auto/37d521_fbc0f724084a44d3824006469deac8be~mv2.webp)
三番目の風 [第1話 全4話]
【第1話】 銀行通り 9月の終わりのイスタンブールは、昼はまだ25度を超えていた。 空港からの高速で、運転手が窓を10センチほど開けた。 入ってきた風が生ぬるい。 潮とディーゼルと、どこかで焼いている肉の匂いが混ざっていた。 ヨーロッパに降りたはずなのに、鼻が最初に拾ったのはアジアの匂いだった。 この街はそういう場所らしい。 三好が泊まるのは、カラキョイのバンカラル通り。 直訳すれば銀行通りだ。 19世紀の終わり、帝国の金はこの200メートルほどの坂に集まっていた。 その名残が、石の塊のまま両側に残っている。 両替屋の表示が、前に来たときより一段悪くなっていた。 この国の金は毎月少しずつ軽くなる。 ホテルは坂の下から五軒目。 1863年に建った銀行の建物で、そのまま宿になっている。 ロビーに入って、三好は少し笑った。 金庫があった。 開いたままの、扉の厚みが30センチ近い鉄の塊。 その周りをガラスが半円に囲んで、カウンターになっている。 金を仕舞うための部屋を、金を使うための部屋に変えたわけだ。 改修したのはこの国の建築家で、費用は聞いて呆れる額

GENPASS 編集 三好
9月25日
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