バンコクで鳴らした俺、プノンペンでも余裕…じゃねーよ!?俺、完全に舐めてたわ….

バンコクで鳴らした俺に、怖いものなどない。
……いや、ちょっと待ってほしい。別にバンコクの夜を知り尽くしているわけじゃない。何度か遊びに行ったことがある。それだけだ。
だから今回、初めてカンボジアのプノンペンで夜を過ごすことになっても、特に緊張はしていなかった。
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Photo: Chanrasmey Miech / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0
タイで経験を積んだ俺なら、カンボジアでも余裕で楽しめるはずだ。
そんなことを考えながら、夜のプノンペンを歩いていた。通りにはバイクやトゥクトゥクが行き交い、屋台や飲食店から明かりと人の声が漏れている。期待が膨らんでいた。
そうして向かったのが、プノンペンのXanadu Barだった。
場所
店内には音楽が流れ、テーブル席やソファが並んでいる。
そして、ひときわ目を引いたのがビリヤード台だった。
酒を飲みながらビリヤードも楽しめる。
なるほど、なかなかいいじゃないか。
営業時間は17時から翌朝4時まで。
ビールは2.50ドル、女性に注文するレディドリンクは4.50ドル。
バーファインは20ドルだ。
料金を確認しながら、俺はすっかり余裕の表情を浮かべていた。
「さて、今夜はどう楽しもうかね」
店内で酒を飲んでいると、ひとりの女性が目に留まった。
肩にかかるくらいの黒髪は艶があり、
すっと通った鼻筋と、笑うと少し細くなる目が印象的だった。
健康的な小麦色の肌に、すらりとした体つき。
彼女がこちらに気づき、軽く微笑んだ。
……なるほど。
こういうときに慌ててはいけない。
自然体で、落ち着いて接する。
これが大人の男というものだ。
「ここ、よく来るの?」
彼女が気さくに話しかけてきた。
「いや、今日が初めてだよ。プノンペン自体、まだ慣れていなくてね」
「そうなの? カンボジアは初めて?」
「そう。だけど、バンコクには何度か行ったことがあるんだ」
言ってから、俺は少しだけ胸を張った。
何度か行っただけなのに、
まるで東南アジアの夜を知り尽くした男のような口ぶりである。
今思えば、我ながら恥ずかしい。
「名前、聞いてもいい?」
「ソピアよ。あなたは?」
自分の名前を告げると、ソピアは微笑んだ。
名前を交換しただけなのに、妙に距離が縮まった気がする。
いや、きっとそうだ。俺はそういうことにしておいた。
英語も身振り手振りを交えれば何とかなる。
やがてソピアがビリヤード台に目を向けた。
「ビリヤード、できる?」
「もちろん」
腕前に自信があったわけではない。
だが、ここで弱気な返事をするのは俺のプライドが許さなかった。
ところが、最初の一打はポケットの手前で止まり、
ソピアのお手本は見事に成功した。
「うまいね!」
「ありがとう」
彼女に打ち方を教えてもらおうと身を寄せられると、ふわりと香りが漂った。
近い。いや、近すぎる。
慌てるな……
俺は落ち着いている……はずだ!!
説明を聞いて打ってみたものの、
白球はポケットをかすめてあらぬ方向へ転がっていった。
「もうちょっとだったね」
「ビリヤードは繊細なコントロールが必要なんだ」
俺は知ったかぶりを続けた。
ソピアは楽しそうに笑っている。
……もしかして、俺のことを
面白い男だと思っているのではないだろうか。
都合のいい解釈が始まった。
「あなた、本当にビリヤードできるの?」
「できるさ!」
反射的に答えると、ソピアは声を立てて笑った。
俺の見栄は完全に見抜かれていたらしい。
それでも、彼女と過ごす時間は楽しかった。
酒を飲み、話をして、ビリヤードを楽しむ。
最初はカンボジアの夜を攻略してやろうなどと考えていたのに、
いつの間にか、そんなことはどうでもよくなっていた。
ソピアと一緒にいる時間そのものが、心地よかったのだ。
そして、夜はさらに深まっていく。
ソピアがキューを置き、こちらを見た。
「ねえ、ショートタイムどう?」
「ああ、いいね」
——声が裏返りかけたのを俺は咳払いでごまかした。
心の中では「きたきたきた」と小学生が廊下を走り回っていた。
表面上は「ふ、任せてくれ」と顎を引く。
嘘である。
財布の計算と鼓動が同時に爆走していた。
ショートタイムの料金は50ドル。
バーファインの20ドルと合わせれば、合計70ドルだ。
それでも、このときの俺はすっかり舞い上がっていた。
バンコクで何度か遊んだ経験がある。
今回も何とかなる。
そんな根拠のない自信が頭の中を支配していた。
ホテルまでの道すがら、ソピアは終始楽しそうだった。
見上げられ、笑われるたびに鼓動が速くなる。
落ち着け。大人の余裕を見せろ。
「先にシャワー浴びよ」
手を引かれ、断る間もなかった。
浴室で彼女がボタンを外す。
手つきが滑らかで、されるがまま。
「自分でやる」
「いいの任せて」
任せた。
余裕である。
実際は触れるたび背筋がびくついた。
彼女がシャツを脱ぐと黒いレースと小麦色の肌。
直視できず天井を見た。
いや、逸らすのは違うだろ。
「洗ってあげる」
「いいって」
「遠慮しないの」
遠慮ではなく心臓が持たないだけ。
黙って背を向けた。
上がるとタオルで俺を拭く。
バスタオルを巻いたままベッドに腰かけた。
ソピアが髪をまとめる。
露わになる小麦色のうなじ。
「そんなに見てると照れるよ」
「別に見てない」
声が上ずった。
キスをされ、俺は目を開けたままだった。
慌てて閉じたが遅い。
「目開いてたよ」
「タイミングが」
「うん、可愛い」
——反論は次のキスに飲み込まれた。
彼女が俺のタオルを解く。
止める間もなく彼女のも床に落ちた。
「焦らないで」
——囁かれ背筋がぞくりとした。
唇が首筋、鎖骨、胸元へと下り、手が身体をなぞる。
握られゆっくり扱かれる。
喉の奥で声を殺した。
まずい、このペースはまずい。
余裕はどこかへバーファインされ、二度と戻ってこなかった。
「私が上でもいい?」
「ああ」と答えられたのはそれだけだった。
いや待て、ここは俺が主導権を取る場面では。
身を起こしかけた胸を片手で押し戻された。
「寝てて」
有無を言わせぬ声だった。
抵抗するのも大人げない。
そう言い聞かせて俺は寝た。
寝ただけである。
跨がられゆっくり沈められる。
思わず腰を掴む。
ソピアは自分で動き始めた。
ここで果てたらバンコクの達人が泣く。
「気持ちいい?」
「ああ、すごく」
正直すぎる返事に自分で驚いた。
ソピアは笑い、動きを速めた。
腰が浮く。
逃げ場がない。
まずい、出る。
腰を押し返して抜こうとした。
だが彼女は止まらない。
逃げようとしたのは俺のほうなのに、
腰が浮くたび抜く理由が一つずつ消えていく。
気づけば俺の手は彼女の腰を引き寄せていた。
逃げるのをやめたのは俺のほうだった。
「いいよ」
笑顔でそう言われ、もう抵抗する気も起きなかった。
最後に強く腰を落とされ俺はそのまま中で果てた。
完全に彼女の手のひらの上である。
心のバンコクの達人はもう土下座すらしていない。
完全に成仏していた。
「言ったでしょ、焦らないでって」
涼しい顔で髪を整え額にキスをされる。
悔しいかなそれが妙に嬉しかった。
単純である。
ソピアと別れ、ひとりホテルへ戻った俺は、
ベッドに腰を下ろしてしばらく天井を眺めていた。
……ふふ。
思わず笑みがこぼれる。
やはり俺は経験豊富だ。
バンコクで何度か遊んだ経験が、
ここでも役に立ったというわけだ。
初めてのカンボジアでも、これだけ楽しめたのだからな。
カンボジア、たやすし!!
……などと、俺は本気で思っていた。
カンボジアの夜は、一度楽しんだだけで
分かった気になれるほど単純なものではなかったのだ。
……俺、完全に舐めてたわ。
カンボジア風俗の沼というものを……。

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