Starfleet Reflex Zone マニラ

更新日:10月6日
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マニラで夜遊びをしていると、
ときどき店名だけで妙に期待させてくる場所がある。
今回向かったのは、マニラ首都圏・パラニャーケにある、
Starfleet Reflex Zone。
Starfleet。
直訳すれば、宇宙艦隊。
強い。
名前だけなら、今から美女と遊ぶというより、
銀河を救いに行く男の行き先である。
だが安心してほしい。
今回、俺が救うのは銀河ではない。
たぶん自分自身だ。
場所
店へ入り、まずは女の子を選ぶ。
Starfleetでは、待機している女の子を比較的近い距離で確認できる。
これがありがたい。
海外の夜遊びで女の子を選ぶとき、
「遠すぎて顔がよく分からない」
ということがある。
その点、ここは近い。
小窓から覗く。
お。
可愛い。
えっ……
目が合った。
俺は反射的に、
ペコッ。
軽く頭を下げた。
次の女の子を見る。
……目が合う。
ペコッ。
また次。
目が合う。
ペコッ。
待て。
これ、
向こうからも普通に
見えているよな……。
俺は女の子を選びに来たはずだった。
なのに気づけば、
女の子を見るたびに頭を下げている。
日本人の礼儀正しさが、
今、一番どうでもいい場所で最大出力を発揮していた。
その中で選んだのは、派手すぎない顔立ちの女性。
ニコニコ愛想を振りまくタイプではない。
むしろ少し落ち着いている。
こちらを見ても、
「はいはい、次のお客さんね」
くらいの余裕がある。
いい!
こういう女は仕事ができそうだ!
案内されて個室へ。
通常のベッドもあるが、
奥にはシャワースペース。
そして今回の目的のひとつが、
ウェットマット。
日本のソープランドにあるような、濡れた場所で使うマットに近い。
Starfleet。
宇宙艦隊。
SFっぽい名前の店に来たら、
待っていたのは宇宙船ではなく、
濡れたマットだった。
まあいい。
宇宙には水も必要だ、と勝手に思い込み
身体を洗ってもらい、そのままマットへ。
ここからだった。
濡れたマットの上というのは、
普通のベッドとは勝手が違う。
手をつく。
少しズレる。
膝に力を入れる。
またズレる。
一か所へ体重を預けようとすると、
その場所が逃げる。
右手。
逃げる。
左膝。
逃げる。
尻。
これも信用できない。
とにかく力を入れると滑りまくる。
俺はまだ何もされていないのに、
身体の操作権を失い始めていた。
Starfleet。
宇宙艦隊。
……なるほど。
これが無重力か。
いや、重力はある。
めちゃくちゃある。
摩擦が足りないだけである。
そして隣を見る。
彼女。
普通にいる。
滑らない。
膝をつく。
身体を動かす。
片手で俺の身体を支える。
姿勢を変える。
ほぼズレない。
おかしい…。
同じマットだぞ?
俺だけが、
氷の上に放り出された大型犬みたいになっている。
対して彼女は、
アシカショーで鼻先にボールを乗せている側の安定感。
何回やってるんだ。
いや。
聞かなくても分かる。
俺とは搭乗回数が違う。
彼女が俺の腰を軽く持つ。
スッ。
正しい位置へ移動させられる。
また少しズレる。
彼女が直す。
スッ。
俺、
またズレる。
彼女、
また戻す。
……。
俺は客だよな?
荷物じゃないよな?
Starfleetに乗り込んだ俺は、
船長どころか、
どうやら積み荷として扱われ始めていた。
しかも彼女はほとんど笑わない。
俺がズレても、
普通。
淡々と位置を直して、
普通。
俺がちょっと情けない体勢になっても、
普通。
笑ってくれた方がまだ救われる。
むしろ、
プロの顔で俺の荷崩れを直してくる。
そんな中、身体が近づいた。
肌が触れる。
さっきまで完全に「作業対象」みたいに扱われていた俺だが、
ここで状況が変わった。
ナント息子が、
おはようございます!
彼女の目線が一瞬下がる。
そして、
ほんの少しだけ表情が変わった。
お!
今、初めて俺を男として見たな?
さっきまで彼女の中で俺は、
「位置調整が必要な荷物」
だった。
しかし息子が立ち上がった瞬間、
ようやく荷札に、
「男性」と書かれた。
俺本人より先に、
息子が男として認識された。
複雑…。
だが、ここから空気が変わった。
こっちは思うように動けない。
だから彼女が位置を作る。
自由に体位を操れないのが悔しい…。
だが、
悔しいのに気持ちいい。
仰向けからうつ伏せへ体勢を変えるよう指示がある。
よし。
今度こそ自力で行く。
身体をひねる。
ツルッ。
ゴロン。
……。
一回転して仰向け。
途中までいい感じだったが、一回転した。
そして、
元位置の俺に戻ってきた。
彼女が俺を見る。
無言。
お願い!
何か言って!
その顔が一番つらい。
宇宙では上下の感覚が分からなくなるという。
マニラのウェットマットで、
その入口だけは理解できた気がした。
その後は、余計なことを考えるのをやめた。
彼女に任せる。
動ける人が動けばいい。
宇宙船だって、
操縦できる人間が操縦する。
彼女の表情。
息遣い。
近い距離。
さっきまで無表情だった彼女も、少しずつ顔が変わる。
俺もようやく積み荷から昇格した。
そして最終的には、ちゃんとフィニッシュ。
ウェットマットでは一度も主導権を握れなかった男が、
最後の最後だけは、
なんとか男として役目を果たした。
俺は立ち上がろうとした。
ここで普通なら終わる。
普通なら。
でも…
手をつく。
足に力を入れる。
立つ。
……はずだった。
ツルッ。
「あっ」
重心が後ろへ逃げた。
ドン。
尻からマットへ着地。
そして、その尻がそのまま円を書くように滑った。
クルッ。
身体が一周回った俺が顔を上げる。
そこには――
彼女。
ご対面。
……。
俺は今、
確かに立ち上がろうとしたが
同じ場所へ帰ってきた。
周回軌道だった。
その瞬間。
それまでほとんど表情を崩さなかった彼女が、
初めて声を出して笑った。
めちゃくちゃ笑っている。
おい!
でも、やっと笑ったな。
今夜、ついにこの女を笑わせた。
色気ではなく、着陸失敗で。
Starfleet Reflex Zone。
宇宙艦隊。
俺は船長のつもりで乗り込んだ。
だがウェットマットでは自由を奪われ、
何度も位置を直され、
身体を運ばれ、
最後には着陸まで失敗した。
よく考えれば、
この宇宙船を最初から最後まで操縦していたのは、
彼女だった。
俺は乗組員ですらない。
ただの積み荷だった。
ただし――
その積み荷。
最後だけは息子から
しっかり発射した。

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