Chameleon Party Club ジャカルタ

更新日:10月6日
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ジャカルタで夜遊びをするなら、
外せないエリアのひとつが南ジャカルタのBlok Mだ。
日本食店も多く、日本人にも馴染みのあるこの街だが、
夜になると昼間とは別の顔を見せる。
そのBlok M、MelawaiエリアにあるKTVが、
Chameleon Party Club。
カメレオン。
周囲に合わせて色を変える、あのトカゲである。
このときの俺はまだ知らなかった。
この店で一番カメレオンになるのが、
俺自身だということを…。
場所
店に入り、案内されたKTVの個室。
酒を注文し、何人かの女の子を見せてもらう。
その中で目に止まったのが、黒髪の細身のタイ……ではない。
ここはジャカルタだ。
危ない。
まだ何も始まっていないのに国を間違えるところだった。
細身のインドネシア人女性。
若く見えるが成人女性で、派手すぎない顔立ち。
笑うと目尻が少し下がる。
第一印象は、
おとなしい。
隣に座っても距離を詰めすぎない。
声も小さい。
ニコッと笑いながらグラスを合わせる。
いい!!
俺はこういう子には分かっている。
ここで騒いではいけない。
今日は俺も大人の男で行く。
ゆっくり酒を飲む。
落ち着いた声で話す。
必要以上に笑わない。
俺の中の「余裕あるジャカルタ慣れした男」が起動した。
……ところが。
酒が少し進んだあたりだった。
曲が変わった。
彼女が突然立ち上がる。
「イエーイ!!」
え?
さっきまでの人は?
マイクを持つ。
歌う。
踊る。
俺の肩を叩く。
グラスを持たせる。
乾杯。
また乾杯…。
急に陽キャになった。
待て待て待て。
お前、さっきまで窓際で紅茶飲んでそうな女だっただろ。
だが俺も負けない。
このタイプならノリを合わせた方がいい。
俺も立つ。
「イエーーーイ!!」
乾杯。
踊る。
急に肩まで動かす。
さっきまでの大人の男は死んだ。
生存時間、約20分…。
そしてこの店には、訪問時、
女の子によるセクシーなテーブルダンスがあった。
彼女がテーブルへ上がる。
音楽が流れる。
すると――
また変わった。
さっきまで口を開けて笑っていた女が、急に俺を見下ろす。
目線が違う。
腰の動きが違う。
指先で髪をかき上げるだけなのに、妙に色っぽい。
そしてそんなに笑わない。
俺の目を見たまま、ゆっくり身体を動かす。
……誰?
今日俺が選んだ女、一人だよな?
もう三人くらい出てきてない?
そして、そんな彼女を見た俺にも再び変化が起きた。
陽キャ終了。
今度はグラスを片手に、
海外の夜遊びを知り尽くした男みたいな顔で座る。
足まで組んだ。
誰にも頼まれていない。
女が変わる。
俺も変わる。
女が笑う。
俺も騒ぐ。
女が色っぽくなる。
俺も急に悪そうな顔をする。
そしてダンスが終わり、彼女が隣へ戻ってきた。
俺の顔をしばらく見ている。
そして英語で、
「あなた、すごく変わるね。カメレオンみたい」
……。
お前にだけは
言われたくないわ!!
誰のせいだと思っている。
こっちはお前が人格を更新するたびに、
必死で最新版へ対応しているんだ。
だが。
悔しいことに、楽しい。
とにかくこの子はよく笑う。
ノリもいい。
一緒に飲んでいて気を使わない。
だったら、もうこの子で行こう。
そのまま店内にある別室のベッドルームへ移動することになった。
ここから先はカラオケではない。
ベッドである。
俺もここで一度、気持ちを切り替えた。
もうカメレオンはいい。
ここからは男と女だ。
部屋へ入り、彼女と向き合う。
さっきまであれほど笑っていた彼女も少し静かになる。
距離が縮まりキス。
近くで見ると、さっきテーブルの上で踊っていたときとはまた違う。
柔らかい。
身体が触れる。
息が近い。
香りまで分かる。
いい!
非常にいい!!
そしてコンドームを出した、その瞬間。
彼女の顔が変わった。
真顔。
え?
急にどうした。
さっきまでずっと笑ってただろ。
袋を見る。
確認する。
開ける。
妙に丁寧。
そして装着。
その表情だけ異常に真剣だった。
さっきまでテーブルの上で腰を振っていた女が、
コンドームを持った瞬間だけ
安全管理責任者になった。
彼女が顔を上げる。
目が合った。
「……」
「……」
プッ。
笑った。
戻るの早いな!!
安全確認が終わった瞬間、
通常営業へ復帰した。
そこからキスをしようとしても、なぜか笑う。
俺がちょっと格好つけた顔をすると、さらに笑う。
「笑うなて!」
俺も笑う。
彼女も笑う。
もう一度近づく。
鼻が少し当たる。
また笑う。
「だから笑うなって!」
全然ムードが作れない。
ちなみに、このときなぜか俺は靴下だけ履いていた。
彼女が足元を見て笑ったことで気づいた。
ほぼ全裸。
なのに靴下だけ守っている。
色気というものは、残っている布の面積ではない。
残っている場所で死ぬことがある。
慌てて脱いだ。
もういい。
格好つけるのをやめた。
大人の男もいらない。
悪い男もいらない。
モテる男もいらない。
素の俺でいい。
……と決めた。
彼女が少し色っぽい目で見てきた。
俺は反射的に顎を少し上げた。
決意の賞味期限、約12秒。
ダメだこいつ。
だが、そこからだった。
二人とも笑って力が抜けたせいなのか、
不思議と距離が一気に近くなった。
キスをする。
今度は笑わない。
彼女の手が背中を回る。
細い身体がぴったりと重なる。
さっきまで大騒ぎしていた声も、
すぐ耳元にあると別物だった。
息が混じる。
表情が変わる。
身体の動きに合わせて、彼女の目が細くなる。
そのままコンドームを着用して本番へ進んだ。
もう彼女に合わせてキャラクターを作ろうとはしなかった。
速くなれば速くなる。
ゆっくりになれば、そのまま受ける。
考えない。
演じない。
ただ目の前の女を楽しむ。
すると皮肉なもので、
今夜一番うまく噛み合った。
一晩中、
「この女にはどういう男がモテる?」
と考えていたのに。
何者にもなろうとしなくなった瞬間が、
一番気持ちいい。
そして最後は――
ちゃんとフィニッシュ。
勝った!
今日は最後くらい普通に勝ったぞ。
そう思えた。
彼女も横で笑っている。
俺も笑う。
少し息を整える。
彼女が俺の顔を見る。
また笑った。
「な、なんだよ…」
彼女が俺の頬を指さす。
「Red」
赤い?
近くの鏡を見る。
……赤い。
めちゃくちゃ赤い。
酒。
暑さ。
運動。
恥ずかしさ。
快感。
全部が一気に顔へ集合していた。
頬から首まで真っ赤である。
すると彼女が笑いながら言った。
「Chameleon!」
……。
今度は何も言い返せなかった。
最初は、ころころ雰囲気を変える彼女を見て、
カメレオンみたいな女だと思った。
ところが彼女から、
「変わっているのはあなたでしょ」
と笑われた。
確かに俺は、彼女にモテようとして何度もキャラを変えていた。
だからベッドルームではやめた。
格好つけない。
演じない。
女に合わせない。
ようやく素の俺になった。
その結果――
今度は身体が勝手に色を変えた。
カメレオンは、周囲や状態によって体色を変える。
俺は女に合わせて人格を変え、
最後は快感に合わせて顔色まで変えた。
もう擬態ではない。
ただの生理現象だ。
Chameleon Party Club。
この夜、一番店名に忠実だった客は――
間違いなく俺だった。




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