Venus Spa & Health Club バタム島

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インドネシアのバタム島。
シンガポールからフェリーで気軽にアクセスできるこの島には、
ショッピングモールやホテル、そして男性向けのスパが数多く存在する。
今回向かったのは、
バタムセンター地区にある「Venus Spa & Health Club」。
サウナやマッサージを楽しめる男性向けスパだ。
せっかくの旅行なのだから、たまには身体をゆっくり休めたい。
もちろん、できればかわいい女の子に癒やしてもらいたい。
いや、正直に言おう。
後者が9割である。
場所
受付を済ませ、案内された個室で待っていると、
一人の女の子が入ってきた。
長い黒髪に、すらっとしたスタイル。
笑うと少し幼さが残る、愛嬌たっぷりの美女だ。
しかも、人懐っこい。
最初からニコニコしながら話しかけてくる。
いいねえ!
こういう女の子は大好きだ!
俺の中の警戒心は、すでにフェリーに乗って
シンガポールへ帰ってしまった。
まずはベッドにうつ伏せになり、マッサージ開始。
温かなオイルが背中に広がり、
柔らかな手が肩から腰へと滑っていく。
おお……。
気持ちえぇ。
そして彼女が時折、顔を近づけて話しかけてくる。
近い。
実に近い。
この距離感こそ、
俺がわざわざ海を渡ってきた理由である。
しばらくすると、彼女の手が止まった。
そして、俺の耳元に顔を近づけた、その瞬間。
グウウウウウ……。
……ん?
何だ、今の音は。
外で大型トラックでも通ったのか?
いや、ここは個室だ。
すると女の子が、突然お腹を押さえて
恥ずかしそうに笑い出した。
「ごめん! お腹すいちゃった!」
……お前かい!
どうやら、彼女のお腹が盛大に鳴ったらしい。
あまりにも見事な低音だった。
彼女はさらに顔を赤くして笑っている。
いやいや、かわいいじゃないか。
こんな美人でも、お腹は鳴るんだな。
俺は優しく聞いてみた。
「お腹すいたの? 何が食べたい?」
「ナシゴレン!」
即答だった。
おいおい!
そんなに元気よく答えるなよ!
さっきまで色っぽくマッサージしていたお姉さんが、
急に遠足のお弁当を楽しみにしている子供みたいになっている。
しかも、ナシゴレンと言った瞬間の笑顔が、今日一番輝いている。
……まあ、かわいいから許す。
彼女も恥ずかしさが消えたのか、
すっかりいつもの笑顔に戻った。
そして、再びマッサージを始める。
やがて彼女が俺の背中に身体を寄せ、耳元で小さく囁いた。
「ねえ……お願いがあるの」
おっ!
来たか!
これは何か、色っぽいお願いに違いない。
「何?」
彼女が少し間を置いて、甘えるような声で言った。
「日本でおすすめの料理、教えて!」
……そっちかい!
そんな話をしているうちに、
俺まで腹が減ってきた。
そして突然。
グウウウウ……。
……。
今度は俺だった。
女の子が一瞬きょとんとして、次の瞬間、大爆笑!
「あなたもお腹すいたの?」
くそっ!
食欲が感染した!
まさかインドネシアまで来て、
女の子と腹の虫で会話することになるとは。
おい! 勝手に国際交流するな、俺の胃袋!
2人でしばらく笑い合う。
しかし、不思議なものだ。
お互いに恥ずかしいところを見せたせいか、
最初よりずっと打ち解けていた。
彼女も遠慮がなくなったようで、
今度はいたずらっぽい笑顔を浮かべている。
そして、俺の胸元にそっと耳を寄せてきた。
おおっ……。
急にどうした?
さっきまでナシゴレンの話をしていたのに!
彼女が小さく笑う。
「心臓、すごく速いね!」
……バレた。
「いやいや、普通だよ!」
「本当に?」
「もちろん!」
男として、ここは余裕を見せたい。
すると彼女が、俺の顔をじっと見つめて言った。
「じゃあ、もっと近づいていい?」
彼女がゆっくりと身体を寄せてくる。
顔がすぐ目の前。
息遣いまで感じるほどのゼロ距離だ。
おいおいおい!
これは反則だろ!
さっきまでお腹を鳴らしていた女の子が、突然こんなに色っぽくなるなんて!
心臓がバクバクしている。
いや、バクバクなんて生やさしいものじゃない。
胸の中で誰かがドラムの練習を始めている。
そこで俺は、ふと手首のスマートウォッチが気になった。
そういえば、これって心拍数が測れるんだったな。
何気なく画面を操作して、心拍数を確認してみる。
……。
なんだ、この数字。
さっきまで落ち着いていたはずの心拍数が、
110を超えている!
運動もしていないのに!
彼女が興味津々で画面を覗き込んできた。
「何これ?」
「ハートレート。心拍数だよ」
「えっ! すごい!」
女の子が笑い出す。
そして、俺の胸にもう一度耳を当てた。
「本当に速い!」
おい!
確認するな!
さっきまで必死に余裕のある男を演じていたのに、
スマートウォッチが全部バラしてしまった。
俺の演技力は三流だが、
心拍センサーの性能だけは一流だった。
彼女はすっかり面白がっている。
「もっと近づいたら、どうなるかな?」
……。
待て。
何を実験しようとしているんだ?
彼女がニヤニヤしながら、さらに顔を寄せてくる。
俺は視線をそらそうとすると
「こっち見て!」
……はい。
怒られた…。
さっきまで笑っていた彼女も、
次第に落ち着いた表情へと変わっていく。
柔らかな笑顔。
耳元での囁き。
そして、絶妙な距離感。
いやあ……。
もう最高じゃないか。
俺の息子も、この時点ですっかり臨戦態勢である。
さっきまで食欲の話をしていたのが嘘のようだ。
彼女の優しさと、俺の息子の懸命な働きによって、無事にフィニッシュ。
それにしても、何だかずいぶん体力を使った気がする。
ほとんどベッドの上にいただけなのに…。
最後は笑顔でお別れ。
途中、何度もお腹が鳴ったり、
心拍数を笑われたりしたが、
終わってみれば素晴らしい時間だった。
帰りのGrabに乗り込み、座席に身体を預ける。
ふう。
ようやく落ち着いた。
そこで、ふと思い出した。
そういえば、さっきの心拍数はどうなっていたんだ?
スマホを取り出し、
スマートウォッチの記録を確認してみる。
すると、今日の心拍数のグラフが表示された。
普段は穏やかに推移している線。
ところが、Venusにいた時間帯だけ、見事な山ができていた。
心臓だけはずいぶん頑張っていたようだ。
しかも、グラフの一番高いところを見て、
思わず笑ってしまった。
あの女の子がゼロ距離まで近づいてきた時間だった。
……なるほど。
どうやら俺の心臓は、
美女との距離に正直らしい。
Venus Spa & Health Club。
なかなか忘れられない夜になった。
ただ、一つだけ言わせてほしい。
俺は今日、ほとんど身体を動かしていない。
それなのに――
心臓だけは、
ハーフマラソンを完走していた。
息子の方は、
100メートル走だったが。




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