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Le Boa ニース

執筆者の写真: GENPASS 編集 八田
GENPASS 編集 八田
8月5日
読了時間: 5分



ニースの夜は、上品すぎる。

地中海沿いのプロムナード・デ・ザングレには高級ホテルが並び、

着飾った男女がシャンパンを飲み、カジノの前には黒塗りの車が滑り込んでくる。

街全体が金持ちの余裕でできている。

俺だけが落ち着かない。


なぜなら今夜の目的地は、美術館でも星付きレストランでもない。

ニース中心部、カレ・ドール近くにあるジェントルマンズクラブ。

「Le Boa」

黒いガラス張りの外観に、赤い入口。

看板には堂々と、

「GENTLEMEN’S CLUB」

「Topless Dance」

と書かれている。

フランス語が分からなくても、

ここが何を見せる店なのかは分かる。


店名の「Boa」とは、

獲物へ身体を巻きつけ、逃げられなくなるまで締め上げる大蛇のことだ。


なるほど。

美女に締め上げられる店ということか。


俺は勝手に理解し、勝手に期待した。



場所



扉を開けると、店内は赤い照明に染まっていた。

大箱のクラブというより、客と女性の距離が近い小さなシャンパンバー。

中央にはステージ。

周囲にはソファとテーブル。

グラスを片手に座る男たちの前を、

ドレスやランジェリー姿の女性が歩いている。

音楽が切り替わり、一人の女がステージへ上がった。


黒髪。

細い腰。

長い脚。

目元は濃く、笑っていないと少し冷たそうに見える。


彼女は音楽に合わせてドレスを脱ぎ、トップレスになった。

さらにゆっくりと身体をひねり、

最後には何も身につけていない姿でステージ中央に立った。


ニースの芸術は、美術館だけにあるわけではない。


俺は背筋を伸ばした。

彼女がポールへ身体を絡ませる。

腰が回る。

髪が揺れる。

照明を浴びた肌が、動くたびに赤く光る。


そして、その瞬間。

目が合った。

彼女は俺を見たまま、片目を閉じた。

ウインク。


来たーー!!!


ニース上陸後、初めて美女から明確な入場許可が出た!


俺は反射的に立ち上がった。

その瞬間、近くにいたスタッフが俺の肩を押さえた。


「Sit down」

座れって


どうやら、まだ俺の出番ではなかったらしい。

彼女はステージの上で踊りながら、こちらを見て笑っている。


興奮のあまり笛が鳴る前に

ピッチへ飛び出した控え選手だった。


静かに座り直す。

大蛇に巻きつかれる前に、自分から巣穴へ走っていく獲物。

捕食する側も驚く積極性である。


ショーが終わる。

彼女がこちらへ歩いてきた。

俺の隣に座り、顔を近づける。

ステージの上では遠かった目が、今はすぐそこにある。


甘い香水の匂いー


裸を見たあとで服を着て近づかれると、なぜか余計にエロい。

彼女は俺の膝へ手を置いた。

そして、またウインクした。

今度は立たない。

俺は学習できる男だ。


彼女は小さく笑い、耳元で言った。

「Now?」

今度こそ本物だった。

立っていいらしい。


一度目はスタッフに止められたが、二度目は彼女に腕を引かれた。

金額と内容を確認する。

俺は頷いた。

彼女は俺の手を引き、店の奥へ進んだ。


Boaの巣穴へ入る。

個室は薄暗く、ソファと小さなテーブルが置かれていた。

扉が閉まる。

外の音楽が遠くなる。

さっきまでステージで何人もの男に身体を見せていた女が、今度は俺だけを見ている。

この「俺だけ」という錯覚に、男は弱い。


た、たまらん…


彼女はドレスの肩紐を外した。

すでに一度見ているはずなのに、近くで脱がれるとまったく別物だった。

胸が目の前にある。

腰へ手を回せば、素肌の温度が指へ伝わる。

彼女は俺の胸を押し、ソファへ座らせた。

主導権は最初から彼女にある。


俺は客ではない。

今夜捕まった餌だ。


彼女は俺の前へ膝をついた。

コンドームを取り出し、慣れた手つきで装着する。

そして顔を上げ、また片目を閉じた。

二度目の本気のウインク。


今度こそ、立つべきものが

正しいタイミングで立ち上がった。



彼女の唇がゆっくり触れる。

ゴム越しでも分かる、唇の圧。

舌先が先端をなぞり、手が根元を包む。

口と手の動きが、まったく同じリズムではない。

少しずらしながら、こちらの反応を確かめている。


彼女は時々止まり、俺の顔を見上げた。

そのたびに、またウインクする。


もう意味が分からない。

俺の片目の読解力が試されている。


腰を少し動かすと、

彼女は俺の太腿を手で押さえた。


動くな。


言葉にはしていないが、目がそう命令している。

俺はおとなしくした。

最初はショーを見ているだけだった。

今はショーの中心に俺の息子がいる。

ニースまで連れてきた甲斐があった。


いや、いつも一緒にいるわ!



彼女はゆっくり口を動かしたかと思えば、急に速度を上げる。

また止まる。

見上げる。

ウインク。


完全に遊ばれている…


こちらが我慢しようと力を入れるほど、彼女の口元が笑う。

Boaは、獲物が暴れるほど強く締めつけるという。


彼女は身体を巻きつけてはいない。

だが、俺の太腿を押さえ、目を離さず、

逃げる余地を一つずつ奪っていく。

俺の呼吸が乱れる。

指先に力が入る。

彼女の黒髪が膝へ触れる。


もう限界だった…

彼女は最後まで目をそらさなかった。

フィニッシュした瞬間、身体中の力が抜けた。



俺はソファへ沈み、彼女は何事もなかったように立ち上がった。

数秒前まで俺の前に膝をついていた女が、

鏡を見ながら髪を整えている。


切り替えが早い


大蛇から一瞬で接客業へ戻った。

俺が服を着るのに手間取っていると、彼女は出口を指さした。

そして三度目のウインク。


最初のウインクでは、俺が立ち上がった。

二度目のウインクでは、息子が立ち上がった。

三度目のウインクでは、俺は黙って服を着た。



フロアへ戻る。

振り返ると、彼女は別の獲物にも、同じウインクしていた。

俺だけに送られた秘密の合図ではなかった。


あれは感情ではなく

営業という餌だ!


Boa(大蛇)は獲物を追いかけない。

片目ひとつで自分から近づかせ、

逃げる気をなくしたところで、ゆっくり締め上げる。


彼女に腕や脚を巻きつけられた覚えはないのだが…。


でも俺は、たった一度のウインクで捕まり、

最後まで息子が完全に口の中で締め上げられていた…。



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