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김실력포차 梨泰院(ソウル)

  • 執筆者の写真: GENPASS 匿名協力記者
    GENPASS 匿名協力記者
  • 21 時間前
  • 読了時間: 8分

嫌われて、惚れられて、潰れた。梨泰院ポチャ一人飲み体験記



梨泰院クラスを見てから、ずっとこの街に来たかった。

パク・セロイが夜の梨泰院でのし上がっていくあのドラマだ。

男が一人で夜の街に立って、何かを掴み取ろうとする姿に、なんか刺さった。

ソウルに行く機会ができた。 行き先はもう決まっていた。

梨泰院。夜のポチャ。一人で飲みに行く。

パク・セロイは梨泰院で伝説を作った。 俺も何か持って帰りたい。

伝説とは言わないまでも、せめていい夜を。

今回入ったのは、김실력포차(キムシルリョクポチャ)。

梨泰院駅2番出口を出てすぐ。迷うことはない。

「김실력」は、直訳すると「キムの実力」。

ポチャで実力を試されるのはこっちだとは、この時はまだ知らない。


場所




誰も助けてくれない


日本の相席屋は、店員がマッチングしてくれる。 席に座ってれば相手が来る。

なんなら飲み物まで出してくれる。 優しい。実に優しい。

韓国のポチャは違う。

テーブルにタブレット端末がある。メニューを選んで注文するやつだ。

気になる相手がいたら? 自分の足で歩いて、自分の口で話しかけるしかない。

店員は何もしてくれない。

システムも何もしてくれない。

誰も守ってくれない。

完全に、野生だ。

入口を入ると、ドラム缶テーブルが並んでいる。

黒い缶の上に銀の丸テーブル。椅子もドラム缶。

壁にはチキンやソジュのポスターがベタベタ貼られていて、天井の照明がぼんやり照らしている。




クラブと屋台を無理やり合体させたような空間。

周りを見る。 男女のグループがテーブルを囲んで、笑いながらソジュを注ぎ合ってる。

向かいのテーブルでは、女の子同士がスマホで自撮りしながらチキンをつまんでる。

……なるほど。

パク・セロイは、最初の夜に一人で長家(チャンガ)に立った。

俺も一人だ。条件は同じだ。

違うのは、向こうはドラマで、こっちは現実だということ。

気合いを入れるために、韓国焼酎(ソジュ)を頼んだ。

4,000ウォン。まずは基本のオリジナルからだ。

これが後で牙を剥くとは、この時の俺は知らない。



完全シャットアウト


よし、行くか。

覚悟を決めて、隣のテーブルに声をかけた。

片言の英語と、スマホの翻訳アプリを武器に。

日本人だと分かった瞬間、さっきまでの笑顔がスッと消えた。

こっちを見ない。

スマホをいじり始める。

韓国語で何か言われたが、たぶん「あっち行って」。

翻訳アプリを出す隙すらなかった。

日韓の政治的な温度差を、居酒屋のテーブル越しに全身で浴びた。

ここは日本じゃない。 そんなことは分かっていたはずなのに、実際に食らうとかなり効く。

パク・セロイは理不尽に殴られても顔色を変えなかった。

俺はテーブルを1つ移動しただけで心が折れかけている。

一人でソジュをすする。アルコールの熱さだけが喉を通る。




正直、帰ろうかと思った


プライドはへし折られた。

もう出ようか。 ホテルに戻ってYouTubeでも見てた方がマシなんじゃないか。

だが待て。

パク・セロイは刑務所から出てきた。

俺はポチャから逃げようとしてる。


ソジュをもう1杯頼んだ。

飲み干して、別のテーブルへ向かった。

反応が、真逆だった。

「日本人なの?」と、身を乗り出してきた。


よっしゃーーー!!!


黒髪のセミロング。大きめのシルバーのフープピアス。

切れ長の目に、少し厚めの唇にツヤのあるリップ。

韓国の女の子って、メイクの完成度がバグってる。

近づいたとき、甘いボディミストの匂いがふわっと来た。

桃みたいな、バニラみたいな、なんかそういう柔らかい匂い。

笑うと目が細くなって、さっきの切れ長の印象が一瞬で消える。

気が強そうに見えて、笑顔がめちゃくちゃ柔らかい。このギャップ。


日本のアニメが好きらしい。東京にも旅行したことがあるらしい。

まじか。アニメに感謝する日が来るとは思わなかった。

クールジャパン戦略、ちゃんと届いてるぞ。

梨泰院まで届いてるぞ。

 

翻訳アプリ越しだが、会話が一気に動き出した。

さっきの地獄が嘘みたいだ。

向こうがスマホに韓国語を打ち込む。

翻訳された日本語が画面に出る。

俺が日本語を打つ。

翻訳された韓国語を見て、彼女が笑う。

スマホを打つとき、細い指がすごく速く動く。

ネイルは薄ピンク。

打ち終わると顔を上げて、こっちの反応を待つ。首を少し傾けて。


スマホ越しの会話って、普通なら面倒くさい。

でも不思議と、翻訳を待つ数秒の間が心地よかった。

相手の顔を見る時間ができる。表情が読める。目が合う。

話すたびに彼女が身を乗り出してくる。

ドラム缶テーブルは小さい。

自然と顔が近づく。

あのボディミストの匂いが、またふわっと来る。


……やばい。

ドラム缶テーブル、いい仕事してるじゃないか。

ソジュを注いでくれた。 グラスを渡すとき、指が触れた。別に狙ったわけじゃない。

テーブルが狭いんだ。

彼女は気づいてるのか気づいてないのか、そのまま笑ってる。

たぶん気づいてる。


話題がドラマに飛んだ。

「梨泰院クラス見た?」と聞いたら、「見たけど、そこまでだった」とバッサリ。

髪を耳にかけながら、真顔で言う。その仕草がまた色っぽい。

俺はあのドラマに影響されてこの街まで来たのに。

「イカゲームの方が断然面白い」と力説された。

聖地巡礼の動機を全否定。

だが、このリアルな温度感がむしろ面白い。

ドラマの趣味は合わなかった。

でも、テーブルの距離は確実に縮まっている。



ソジュ、舐めてた


合流してからの飲みペースが別次元だった。

「ワンショッ!」

一気飲みの掛け声。彼女が先に飲み干す。

グラスを置いて、こっちを見る。少し上目遣い。

口元がにやっとしてる。

完全に煽ってる。


負けてたまるか!!!


フレーバーソジュをグレープフルーツ、もも、マスカットとチャンポン。

甘い。全部甘い。ジュースみたいに飲める。だが度数は16%。

甘いくせに容赦がない。3種類目で視界がぼやけ始めた。


彼女はまだ平然と飲んでいる。

頬がほんのりピンクになってるのに、目は全然座ってない。

強い。酔うと少し声が大きくなって、笑い方が雑になる。

さっきまでの上品さが崩れる。

その崩れ方が、たまらなくいい。

翻訳アプリの画面が二重に見える。

何を翻訳してるのかもう分からない。

パク・セロイは梨泰院で店を開いた。

俺は梨泰院でテーブルに突っ伏した。

パク・セロイは何年もかけて夢を叶えた。

俺は2時間で潰れた。



介抱されて帰った


頭が重い。目が開かない。

テーブルに突っ伏したまま、誰かの声が遠くに聞こえる。

韓国語。柔らかい声。さっきの彼女だ。

肩を揺すられた。

「大丈夫?」 たぶんそう言ってる。

翻訳アプリはもう使えない。

でも、声のトーンで分かる。

水を持ってきてくれた。冷たい。ありがたい。

グラスを受け取るとき、彼女の手が温かかった。

情けない。こんな距離で、こんな状態。


肩を貸してくれた。

彼女の肩に手を回す形になる。

さっきの甘いボディミストの匂いが、今度はすぐ近くにある。

最初に席に着いたとき、ふわっと香った桃みたいな匂い。

あのときは距離があった。今はゼロだ。

最悪のシチュエーションで、最高の距離感。


外に連れ出してくれた。

梨泰院の夜風が頬に当たる。

少しだけ意識がはっきりする。

タクシーを呼んでくれた。

乗り込むとき、彼女がスマホに何か打ち込んで見せてきた。

翻訳アプリの画面。

「また来てね」


こっちは酔っ払ってヨレヨレで、目も半開きで

たぶん口元にソジュの匂いを漂わせていて

どう見ても「いい男」とは程遠い状態だったと思う。

なのに「また来てね」。


聞け。 聞け俺。 聞けって言ってんだろ俺。

連絡先を聞け、今すぐだ、今この瞬間、人生で一番大事な瞬間だぞこれ。

頭の中では叫び続けている。

体は1ミリも動かない。

スマホは膝の上にある。

手はスマホの上にある。

あとは指を1本動かすだけ。

それだけで連絡先交換ができる。


指は動かない。

なんで動かないんだお前。

さっきまで「ワンショッ!」とか言ってグラス持ち上げてたじゃないか。

あの握力どこ行った。

チャンポンに全部消費したのか。返品しろ。


目の前で彼女が手を振っている。

ピンクのネイルが揺れている。

笑顔だ。最高の笑顔だ。

見送ってくれている。

それを、半開きの目で受け止めている。

よだれを垂らしそうな顔で。

待って。 待ってまだ閉めないで。

あと3秒。3秒でいいから。

いや、5秒。やっぱり10秒。

10秒あれば俺は──


くそおおおおおおおおおおお!!!!!


タクシーのドアが閉まった。完。



タクシーの窓から梨泰院のネオンがぼんやり流れていく。

いい夜にするはずだった。

むしろ、なりかけていた。

なのに、自分で台無しにした。

パク・セロイは梨泰院で伝説を作った。

俺は梨泰院で、連絡先すら聞けずにタクシーに乗せられた。

完敗だ。


김실력포차。

「キムの実力」という名前の店で、俺は自分の実力のなさを痛感した。

タクシーの中で目を閉じる。

梨泰院のネオンはもう見えない。

でも、あの桃みたいな甘い匂いだけが、まだ鼻の奥に残ってる。

梨泰院の夜は、意味がわからない。

だから、また来たい。

今度は、潰れる前に連絡先を聞く。



基本情報

店名: 김실력포차(キムシルリョクポチャ)

場所: 梨泰院駅(ソウル地下鉄6号線)2番出口すぐ。ソウル特別市 龍山区 梨泰院洞 112-6番地 1階。

営業時間: 月〜水 18:00〜06:00 / 木・日 18:00〜07:00 / 金・土 17:00〜09:00

予算: ソジュ4,000ウォン〜、フレーバーソジュ6,000ウォン〜、チキン・おつまみ類10,000〜30,000ウォン。一人30,000〜50,000ウォン程度。


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