チャイナタウン置屋 クアラルンプール
- GENPASS 編集 八田

- 6 日前
- 読了時間: 4分

クアラルンプール、チャイナタウン。Petaling Street。
屋台の煙、漢字の看板、偽物ブランドを売るおじさん
フルーツジュースの甘い匂い、大声で値段を叫ぶ客引き。
ここは完全に観光地だが
「チャイナタウンの奥に、隠れた置屋がある」
という情報を手に入れ、俺の「せっかく来たし」スイッチが入って
いつものアドベンチャーモードに変わる。
場所
Petaling Streetのこの店の横当たり
いろいろ路地を入って、キョロキョロして、どこを歩いているのかもわからなくなったころ、それらしき扉、というかダンジョンの入り口が見えてきた。
この感じのダンジョンは、だいたい正解だ。経験則。
この入り口に入るとすぐある階段を上っていく。
階段を上がり見渡して、最初に思ったことを正直に言う。
「あれ、みんなまあまあなお姉さんだ」
見た感じ30代から40代。通路があって各扉の前に立っている置屋スタイル。
全員。例外なしに年配感を感じるが聞いてみると自称30歳とか32歳とか。
いやいや、40歳くらいは、すでにいっているぞ、という方もいて…
若干、若い子を期待していた男の本能が、一瞬フリーズした。
でも男の本能は立ち直りが早い。
「一番若そうな子を選ぼう」という作戦に即座に切り替えた。
この「一番若そうな子を選ぼう」作戦が、まず詰んでいた。
全員が同じくらいに見える。30代なのか40代なのか、正直区別がつかない。
スキンケアなのか生命力なのか、みんな肌が思ったよりキレイに見えてきた。
若さの基準が崩壊しかけたところで、ひとりの女性と目が合った。
笑顔が柔らかい。
直接話しかけて、価格は50リンギットだった。
吉野家の牛丼並盛より安い。
「この人にします」と言った。なんとなく。
その個室に入ると、いきなりが始まった。
手つきが違う。
力の入れ方が違う。
何かが違う。
20代の子にありがちな若さにものを言った力業でもなく、
「お前が今どこをこれくらいの力でさわれば、気持ちいいか全部わかっているぞ」
という手の動きだ。
すごい。
これは、すごい。
しかも、なんかスースーしてメンソールでも塗っているのか一気に昇天。
あっという間の出来事だった、ナイスフィニッシュ。
そこまでは良かった。
終わったとたん、まだ少し時間がある(俺が早かったから…)ようだったので
軽くマッサージしてくれた。
施術をしながら、彼女が言った。
「最近ちゃんと寝れてる?」
…え?
「肩がすごく固いよ。疲れてるでしょ」
あ、はい。
「日本から来たの?遠かったでしょ」
え、あ、はい。
「ご飯ちゃんと食べてる?」
ちょっと待て。
「水分もこまめに飲んでね」
待ってくれ。
「無理しすぎだよ、もっと体大事にしなきゃ」
うるせぇぇぇぇぇ!!!
なんでマッサージ中に母親になってんだよ!!!!!
でも体は正直で、
手の技術が本物だから、気持ちよさと母性ケアが同時進行するという
俺の脳が処理できない事態に陥った。
「ありがとうございます……お母さん……」
と言いそうになったのを、ギリギリのところで飲み込んだ。
飲み込めたのか、飲み込めてなかったのか、今でも分からない。
結果だけ言う。最高だった。
個室はきれいとは言えない環境だったが、技術がすごかった。
経験値がすごかった。
「若さ」を求めてきた男が「熟練」に完敗した。
50リンギットで経験値の暴力を食らった。
体が溶けた。
若さじゃなかった。
経験値だった。
この世の男はだいたい「若い子がいい」と思っているが
たまには、30〜40代の熟練に一度でも打ちのめされた方がいい。
その価値観が静かに書き換えられる。
俺もその一人になった。
経験値被弾サイコー!!!
店があるダンジョンを抜け出て地上に出た。
夜のチャイナタウン。
屋台の煙がまだ漂っている。スマホを取り出した。
LINEの通知が来ていた。
本物のお母さんから。
「元気にしてる?ちゃんとご飯
食べてる?無理しすぎないでね」
……………………………。
さっきも聞かれた。
50リンギットのチャイナタウンで。
俺は今夜2人のお母さんにケアされた。
お母さん、俺、元気にしてます。

基本情報
店名:チャイナタウン置屋(店名わからん)
エリア:クアラルンプール、チャイナタウン(Petaling Street周辺)
料金:50リンギット
女性層:30〜40代
注意事項:
Googleマップには載っていないので自力で探す
ベテランの経験値の暴力には覚悟して臨め
お母さんからのLINEは帰ってから確認しろ



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