NZ Spa ジョホールバル
- GENPASS 編集 伊達

- 4月29日
- 読了時間: 4分

ジョホールバルの夜
ベルジャヤウォーターフロントホテルに入った。
ロビーはちゃんとしている。
フロントがあって
スーツケースを引いたビジネスマンがいて
ソファにカップルが座っている。
コンシェルジュが立っていて、
観葉植物が置いてあって、
どこからどう見ても普通のホテルだ。
場所
ベルジャヤウォーターフロントホテル 7階
その7階に、NZ Spaがある。
カウンターで受付をする。ロッカーキーを渡される。
着替えて、お風呂で体を清める。
タオルも清潔だし、お風呂もちゃんとしている。
シャワーの水圧も悪くない。
ここまでは完全に普通のスパだ。
どこに連れていかれるのか全くわからない状態で、ちゃんとしたスパの動線を踏んでいる。
待合室の奥に進むと、女の子たちが並んでいた。
タイ、ベトナム、インドネシア。様々なタイプがいる。
その中に、一人だけ佇まいが違う子がいた。
特別に派手なわけじゃない。
でも何か、落ち着き方が違う。目が静かだった。
他の子がこちらを見ているのに、この子だけ視線が安定している。
この子にした。いざ、施術部屋へ。
始まった瞬間、わかった。
この子、全部わかっている。
強さ。タイミング。場所。
何も言っていない。でも全部わかっている。
肩の、ここだよなというところをピンポイントで押してくる。
「そこじゃないけど惜しい」という場所を経由せずに、最初から正解に来る。
背中の右側が特に気持ちいいのも、こちらが何も言わないのに知っている。
腰のあたりの「かゆいけど自分では届かない場所」も、当然のように処理される。
すでに気持ちい!!
タイミングも完璧だ。
「もう少し続けてほしい」という瞬間に続けてくれるし
「そろそろ変えてほしい」という瞬間に変えてくれる。
力加減も一度も外れない。
強すぎず、弱すぎず、常にちょうどいい。
こちらが反応する前に、次の手が来ている。
「全部わかり女」と命名した。
すごい。本当にすごい。こういう子がいるんだ……
施術が続く。全部わかってくる。全部先読みしてくる。
「ここ気持ちいいやろ」という顔さえしていない。
当然のようにやってくる。
「サービスです」でも「どうぞ」でもなく
「これが普通でしょ」のテンションで全部わかってくる。
中盤に差し掛かったころ、急にハミングが始まった。
鼻歌だ。小さく、でも確かに、なにかを歌っている。すると…
「あれ、これ何の曲だ。」
聴いたことがある。絶対に聴いたことがある。でも出てこない。
なんだっけ……サザンか?いや違う……山下達郎か?でもなんか違う……
思い出しかけたとき、曲が変わった。
「あ、これも知ってる。」
なんの曲だ。テレビで聴いたことがある。
CMか?ドラマの主題歌か? 思い出しかけた。
もう少しで出てくる。ここまで来ている。
あと一秒あれば……
また変わった。
「待って。」
思わず声に出る、俺。
女の子も「えっ!?」みたいな顔で手も止まる。
ごめん、ごめん。続けてください。
わかった。この子のハンドジョブの気持ちよさで
血流が頭ではなく、下に集まっていた。
そりゃ、脳の動きも遅くなる…
なんて思っていると、また別の曲が始まっている。
また知っている曲だ。また出てこない。
今度こそ出てくる気がする。
小学校で聴いた曲か?運動会か?いや違う……
もっと最近だ……
カラオケで誰かが歌っていたか?それとも居酒屋のBGMか?
また変わった。
待て待て待てーい!!
もう4曲目だ。全部知っている。全部出てこない。
思い出しそうで思い出せない状態が、ずっと続いている。
しかもこの子、ハミングしながら施術の精度を一切落としていない。
気持ちいいところを的確に処理しながら、
知っているけど出てこない曲を歌い続けている。
マルチタスクの鬼だ!
もう考えるのをやめて、気持ちよさに全振り。
その瞬間、フィニッシュ。
この子、何者なんだ
終わった。全部わかり女はにこっと笑った。
その顔も、「お疲れ様でした」の顔だった。
最初から最後まで、何も言わなかった。
外に出た。
ジョホールバルの夜風が顔に当たった。
少し歩いたとき、気づいた。
「ふんふんふーん♪」
鼻歌が出ていた。
あの曲だった。
「あ。」
思い出せなかった曲が、体にはちゃんと入っていた。
頭では最後まで出てこなかったのに、口は知っていた。
全部わかり女は、俺が帰り道に
何を歌うかまで、全部わかっていた。

【NZ Spa / ジョホールバル 基本情報】
場所:ベルジャヤウォーターフロントホテル内(ジョホールバル)
料金:約280リンギット(要確認)
・ホテル内のスパなので動線はちゃんとしている。ロッカー、お風呂あり。
・全部わかってくれる子に当たったら、おとなしく任せること。
・帰り道の鼻歌には気をつけろ。



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