「28 HongKong Street」を潜った夜、僕は「本物」の洗礼を浴びた
- 3 日前
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シンガポールの夜は、粘りつくような湿気とともに更けていく。 ビジネスミーティングを終え、まとわりつく熱帯の空気に辟易しながら、僕はタクシーに乗り込んだ。
「どこへ行くんだ?」と運転手がバックミラー越しに聞いてくる。
「28 HongKong Street」と告げると、彼はニヤリと笑った。「旦那、いい趣味しているね。だが、通り過ぎても文句言うなよ。あそこには看板がないからな」
そう、今夜僕が目指すのは、単なるバーではない。アジアのバーシーンを牽引し続ける伝説の店、『28 HongKong Street』だ 。
廃墟? それとも倉庫? 試される「入る勇気」

タクシーが停まったのは、ショップハウスが立ち並ぶ薄暗い通りだった。 「ここだよ」と言われて降りたものの、目の前にあるのは古びたベージュ色の壁だけ。煌びやかなネオンもなければ、客引きの黒服もいない。「28 Hongkong St」という住所だけを頼りに目を凝らすと、扉の脇に小さく、本当に申し訳なさそうに「28」という数字が書かれているのを見つけた 。
「本当にここか…?」 一瞬、誤って裏社会の事務所のドアを開けようとしているのではないかという不安がよぎる。だが、ここまで来て引き返すわけにはいかない。 意を決して重厚な扉を押し開け、分厚い遮光カーテンをくぐった瞬間。
世界が、裏返った。外の静寂が嘘のような、爆発的なエネルギーが鼓膜を震わせる。1920年代のニューヨークを彷彿とさせる漆黒と琥珀色の空間。そこに重なる、適度にボリュームの効いた活気あるBGM 。
場所
28 Hongkong St, シンガポール 059667
「28 SGD」の衝撃と、それにひれ伏す味

カウンターの端に滑り込み、メニューを開く。 カクテルの価格は28 SGD~ 。円安の痛みを肌で感じる瞬間だ。日本の居酒屋なら飲み放題が付く値段である。「おいおい、強気だな」と心の中で毒づきつつ、バーテンダーにおすすめをオーダーした。
現れたのは、美しくカットされた氷が鎮座するショートカクテル。 グラスの縁に口をつけた瞬間、驚いた。アルコールの角が一切ないのだ。複雑なハーブの香りと、熟成されたスピリッツの甘みが、シルクのように喉を滑り落ちていく。 「Asia’s 50 Best Bars」の常連という肩書きは伊達じゃない 。高い? いや、撤回しよう。この技術と空間への入場料込みなら、むしろ安いとさえ思えてくる。悔しいが、完敗だ。
悪魔的な誘惑「トリュフ・マック&チーズ・ボール」
酒が進むと、胃袋が何かを訴え始める。ここで絶対に頼まなければならないのが、名物「マック&チーズ・ボール(Mac & Cheese Balls)」(19 SGD)だ。
「マカロニチーズを丸めて揚げる? アメリカのジャンクフードだろ?」と侮ってはいけない。運ばれてきたのは、黄金色に輝く3つの球体。 手でつまみ上げると、揚げたての熱さが指に伝わる。そのまま口へ放り込むと、カリッとした衣の食感の直後、中から熱々のチーズがマグマのように溢れ出した。
「熱っ! …うまっ!」
濃厚なチェダーチーズとモッツァレラのコク。そして強烈なトリュフの香り。 これは反則だ。洗練されたカクテルの繊細な味わいを、暴力的なまでの旨味と油分が上書きしてくる。
これから挑む「同志」たちへ:攻略の心得

予約は「義務」だと思え
平日の夜でも、店内は恐ろしいほど満席だった。予約済みの僕はスマートに着席できた。公式サイトか「Chope」で、最低でも数日前、週末なら1週間前には席を押さえること 。 ピークタイムは戦場だ。混雑時は90分〜120分と時間制限が設けてある。
服装は「キメすぎず、抜きすぎず」
ドレスコードは「スマートカジュアル」 。短パンやビーチサンダルで来ると、屈強なスタッフに止められる未来が見える 。 僕は襟付きのシャツにダークジーンズ、革靴で挑んだが、これが正解だった。周りを見渡しても、仕事帰りのスーツ姿か、小洒落たシャツスタイルの男性が多い。気合いを入れすぎたタキシードでも浮くし、ラフすぎても舐められる。
財布には「余裕」を持たせろ
楽しい時間はあっという間に過ぎる。ここで忘れてはならないのが、メニュー価格に加算される「サービス料10%」と「GST(消費税)9%」の存在だ 。合計約20%の上乗せパンチは、酔いが覚めるほどの威力がある。 だが、スマートにカード(Visa/Master/Amex)を出し、サインを済ませよう 。顔を引きつらせてはいけない。それが大人の流儀だ。
扉の外に出たとき、君は少しだけ変わっている

店を出ると、再び蒸し暑いシンガポールの夜気が肌にまとわりついた。 だが、入店前の不快感はない。胃の中には極上の酒とチーズボール、そして心には「秘密の社交場を知っている」という優越感があるからだ。
「28 HongKong Street」は、単に酒を飲む場所ではない。 看板のない扉を開ける勇気、高価な酒を味わう味覚、そしてあの空間を楽しむ余裕。
もし君がシンガポールで、観光客向けの煌びやかなルーフトップバーに飽き足らなくなったら、28番地を探してみるといい。Good luck .



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